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第355話
僕は九条さんを怖いと思えなくなってる。
寧ろ優しい時間の方が多くて、楽しい思い出が記憶を覆っていく。
僕、嫌いじゃない…九条さんのこと…。
あんなにも強く傷つけられた心も今は痛くない事に気がついた。
心はあの日とは裏腹に穏やかだった。
何で?
なぜだか分かってしまった様な気がする。
今まで経験の無いこの感じたことの無い気持ちが自分を支配していく。
知らないはずなのに、この感情の名前を知っている。
間違いだったらどうしよう?
経験が無いから僕の勘違いだったら!?
この気持ちが本当にそうなのか確信が持てない。
第一に、言葉にしても九条には伝えられない感情だと理解出来た。
もしもそうだとして、でも言葉にして九条さんは?
僕は女の子じゃないし、お金持ちでもないし、何も特技さえない普通の子どもだもん。
有り得ない。
気がついた感情を表に出せない事に気がついた瞬間、祐羽は我慢していた涙が再び溢れてきた事に気がついたけれど唇を噛みしめて九条を見つめる事しか出来ない。
「僕は、九条さんのことが…」
好き。
…好きだ。
言っちゃダメだけど、言っても無駄だけど、たぶん嫌われるし、本当に縁が切れるかもしれないけど。
縁を切りたいと願っていたのに、今は繋がっていたいと、切りたくないと思っている。
九条さんを見てるだけでこんなにも胸がドキドキするし苦しくなるし、泣きたくなるほど好きなんだ。
今まで他の誰にもこんな気持ちになった事ないよ。
見つめる九条がゆっくりと動いたかと思うと、大きな手を伸ばして祐羽の目元の涙を指先で優しく拭った。
驚いたけれど、祐羽は見つめ合った視線を外せなかった。
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