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第358話

九条さん…僕の事を…。 その言葉に、祐羽は素直に嬉しいと思い声を上げようとした。 けれどそれと同時に困惑もした。 それって一目惚れって言うんじゃぁ…でも僕の何処に一目惚れする要素があったの? 無いよ、そんなの…。 その考えに陥った時、一気に気持ちが落ちていった。 自分の何処に一目惚れする要素があったのか? それに一緒に居ても自分は一切何もしていない。 そこに魅力も徳も何もないではないか。 祐羽はポツリと言葉を吐き出した。 「九条さん。僕イケメンじゃないし一目惚れって…それに話下手くそだから一緒に居ても面白く無かったでしょう?その…いいんですか?」 自分で言っていて情けなくなるけれど、本当の事だ。 一目惚れなんて…やっぱり気のせいでしたなんて言われてしまったら立ち上がれない。 だって初めて好きになった人だから。 頭がおかしくなりそう。 苦しい…泣いてもいいかな…。 すると九条が呆れた様子で溜め息をついた。 「フウッ…何を言い出すかと思えば。俺の審美眼を疑うな。それにお前は充分面白いぞ」 「面白っ、うぅぅ~」 涙が出てきてしまう。 「九条さんが優しいからですよぉっ…、じゃないと」 グズリながら何とか言いたい事を言うと、九条にフンッと意地悪く笑われてしまう。 「それに僕…、男ですよ?」 再び何故か勝手に溢れてきた涙をそのままに泣きながら訊くが九条は面白そうに笑う。 「お前のことを抱いたんだ。男とか今更だろう」 「そ、そうですけど…第一に、む、無理矢理でしたよ?!僕、良いって言ってなかった…!ううっ…グスッ、それに僕のどこが良いのか本当に分からない…っ」 九条が涙に溺れる祐羽を引き寄せた。 「!!」 力強く抱き締められて祐羽の涙が風に飛んだ。 九条は祐羽を抱き締めると、こめかみにキスを落とす。 その熱い感触をくすぐったく思いながら、祐羽は目を閉じて静かに受け止めた。

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