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第359話
「悪かった」
「…九条さ、」
「お前が可愛くて我慢出来なかった…。お前が自分の良さを分からなくても俺が分かってる」
低く甘く静かに響く声が耳に染みる。
可愛いって言われて嬉しい。
九条が自分のことを分かってくれている。
それが嬉しくて嬉しくて、祐羽は噛み締める様に頭の中で九条のことばを再生した。
「お前がほしい…」
祐羽が顔を上げると、九条の真摯な目が向けられていて息を止めた。
それからまた九条の唇が重なる。
祐羽は目を閉じて受け入れた。
唇が離れるが、視線は離れない。
「何があろうとお前が嫌がろうが、俺はお前が離せそうもない…いいか?」
いつになく弱気に見えるのは気のせいだろう。
九条はいつだって強気で自信満々だから。
けれど、そう見えたのは祐羽の願望なのかもしれない。
自分のことをいつまでも大好きでいて欲しいという願望。
「祐羽…返事をしてくれ」
そんな切ない声で求められて、今の自分が出す答えはひとつしか無かった。
もう分かっていた。
ただ自分の中の常識とか色んな物が邪魔をしていただけで、答えは決まっていたのだから。
祐羽はゆっくりと頷いた。
「僕も、九条さんと一緒に居たいです…」
怖くない、いつの間にか気になってた、構われる事に隣に並ぶ事を心地よく思ってしまっていた。
そして、好きになってたんだ…嬉しい気持ちが溢れ積み重なった結果が今。
「僕も…僕も好きです」
好き。
大好き…。
ふたりで視線を絡ませて自然と微笑み合う。
九条さんのことが大好きだ…。
九条の顔が近づいてきて、祐羽は自然と目を閉じた。
それから、もう1度キスをした。
もの凄くドキドキした夢のようなキスは、とても幸せなフワフワとした優しいキスだった。
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