361 / 1012

第360話

幸せ…。 祐羽からも手を回してしがみつくように抱きついた。 逞しい懐に顔を埋めて九条の香りを吸い込むと、心臓が鼓動を刻むのが聴こえる。 ドキドキしている自分の心音と重なり合う様で、祐羽はクスッと笑った。 本当に幸せだなぁ…。 小さく笑った事に気がつき、九条が懐に囲っていた自分を見下ろしてきた。 「?」 「…僕、幸せです」 祐羽の言葉に九条が微笑んだのに対して、祐羽もくすぐったさを感じて微笑み返した。 「…あっ、九条さん空見て下さい!」 九条の顔を見上げると、その向こうに星空が広がっていた。 空は街からの灯りが遠いからか、都会のど真ん中よりも星と月がよく見えた。 いつもと変わらないだろうが、今の祐羽にとっては特別な夜空に見えた。 あまりにも綺麗で九条にも共有して欲しくて、新しい思い出にしたくて。 「星がたくさん光ってますよ」 「少し見ていくか…」 「はい」 もう少しふたりで並んで居たい。 そう思い返事をすると、九条と連れだって少し戻る方向へと歩いた。 先程より外灯の落ち着いた場所にベンチを見つけて並んで座る。 ここなら、星もよく見えるだろう。 見上げると暗闇に星が思ったよりも光っている。 よく見るとチカチカと大きく光る星もあったりして面白い。 「あの星凄くピカピカしてますよ。色んな星がありますねぇ…」 「春の大三角と、そろそろ夏の大三角も見える頃だな」 「えっ、そうなんですか?詳しいんですね」 ちょっと意外で驚いた。 「あそこの星だな」 そう言って九条が指を示して教えてくれる。 「今度プラネタリウムでも行くか?」 九条から星の名前が出たのもだが、プラネタリウムにも驚かされる。 九条に誘って貰えて嬉しさも跳ね上がる。 次の約束が出来たのだ。 祐羽は嬉しさに笑顔を浮かべた。 「はい。楽しみにしてますね」 その答えに九条が空を見上げたので、祐羽も同じ様に星を見上げた。

ともだちにシェアしよう!