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ハンカチを受け取って涙を拭う。 すると、頭をよしよしと撫でられた。 「先生も大変だな」 「…。一臣くん」 「俺が何とかしてやる!」 そう言って一臣は、呼ばれて女の子の群れに近づいて行った。 佐藤のしんどさは変わらないが、一臣の優しさに触れて、頑張ろうと自身を励まして立ち上がった。 朝の会が始まると、摩波呂がふざけて歌を歌い始めた。 音程は酷いし、声も大きくて聞くに耐えない。 「摩波呂くん、大きな声がとってもいいよ。もう少し音を聴いて皆と合わせると、声が重なって綺麗だよ」 と、佐藤が声掛をしたところで無視だ。 摩波呂の取巻きの男の子も一緒になってふざけ始める始末。 女の子が嫌そうにしたり、知らん顔で隣の子とお喋りを始めてしまった。 あぁっ…またクラスが…。 佐藤が唇を噛み締めた時だった。 「うるせぇ、音痴」 教室に声が響いた。 メチャクチャ歌っている摩波呂よりも、大きな声が。 え? 佐藤は驚いて、ピアノを弾く手を止めた。 だだだだだだだ、誰?今の誰が言ったの? クラス全体がシンッとなった。 その視線の先には、九条一臣がいた。 「なんだとーっ!!?」 摩波呂が顔を赤くして一臣を睨んだ。 怒りに拳を握り、一臣に近づいた。 顔が近い。 「音痴は歌うな。先生のピアノが聴こえねぇし、皆の耳が腐る」 摩波呂に聴こえる程度の声で、しれっと言ってのける。 「く、く、九条~ッ!!」 とうとう摩波呂が怒りを爆発させた。

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