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さっそく車で行きつけの店がある街へと送って貰うと、大金の入った鞄を肩から掛けて歩き出した。 「っていっても俺の服じゃイメージ合わないよな?」 中瀬と祐羽では背格好から顔から違う。 同じ様な服を着ても野暮ったいというか、服に着られてる感が否めないだろう。 想像してから頭を振って否定した。 「それに会長の好みもあるよな…」 第一に祐羽が着飾って喜ぶのは九条なのだから、その好みを反映するのは当たり前だ。 とはいえ、九条の好みなど聞いたことがない。 今までの女は華やかな美人が多かった。 それは、ただ単に相手が夜の女やたまにモデルや芸能関係だったからだ。 今回は勝手が違う。 どんくさ、…大人しそうなヤツだもんな。 しかも男だし服とかマジ悩むんですけどぉ~。 中瀬は祐羽をぽわわわーんと思い出す。 どう考えても大人しい。 そんな人間に着せる服。 九条の隣に立たせるには、ちょっとくらい小綺麗な感じでいいだろう。 ラフ過ぎては駄目だ。 九条とのバランスも大切だから、と選んだのはその辺のカジュアルショップではない。 1本道を変えるだけで、ブランドショップの立ち並ぶエリアとなる。 そのうちの1店舗を選んで入った。 「いらっしゃいませ」 海外では有名でも日本ではまだあまり知られていない隠れた名店だ。 正直、今日の自分は全く相応しくない格好と自覚はしているが堂々と入る。 例え冷やかしだとしても次は本当の客になる可能性もある客への態度が、そのブランドに価値があるかどうか知れるのだ。 然り気無く見るが、店員に変わった態度はなく綺麗な微笑を称えている。 まずは合格だ。 客によって態度を変える店もあるからな…。

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