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【第2部】8月××日
はぁっ、はぁっ、はぁっ…、
走って、走った。
運動神経が良いとはいえない自分だが、なんとか走れている。
部活をしていて本当に良かったと、今心からそう思った。
とにかく少しでもここより遠くへ行かなければと焦りだけが募っていく。
冷静にならなければと思いながらも、なかなかそれが難しい。
こんな事になるなんて。
普通の高校生としての平凡な人生を歩んでいたら…九条と出会わなければ祐羽はこんな目に遇ってはいなかっただろう。
そう。九条とさえ出会わなければ…。
「う…グスッ、もう嫌だ…っ!」
突き当たる度に同じ様に行く方向を迷い、足が止まる。
それだけ時間が無駄に消費されていく。
今の自分には1分1秒も貴重なのに。
泣くなと自分に言い聞かせても勝手に涙がウルッ溢れてくる。
普段から涙もろい自分に、今のこの状況で泣かずに居るというのは無理だった。
高校生だろ、男だろと自分を叱咤しても、どうしても止められない。
うるうると視界に涙が溢れてくる。
そして、まるで全身が心臓にでもなったかの様だ。
ドキドキと破裂しそうに心音が鼓膜に鳴り響く。
上がる息を整えたくても混乱した頭と心では、それさえも上手くいかない。
不安で押し潰されそうだ。
グイッと手の甲で涙を拭うと、祐羽は自分の勘を頼りに移動する。
慣れない土地、見知らぬ場所。
どこをどう行けばいいのか分からない。
けれど、とにかく一刻も早くこの場所から見つからないように逃げなくてはならない。
「助けて…っ!」
けれど、祐羽は忘れていた。
自分がとても方向音痴だということを。
山道は道路が舗装されているとはいえ、途中で分かれ道もあり、似たような景色が続く。
逃げているつもりがグルリと回って半分近く元の場所に近い所へ戻ってきていたことに気がついていなかった。
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