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祐羽はそのまま黙って勢い良く2階へ上がると自室へ飛び込んだ。 そして鞄の中を漁り財布を取り出すと、1枚の小さなカードを手にして戻った。 「お父さん!これ見て!!」 そう言って祐羽は亮介の前にカードを提示した。 「…名刺?」 祐羽が持ってきたのは1枚の名刺。 それは九条が「困ったらこれを出せ」と、万が一の時に保証人として祐羽を助けてくれる為に渡してくれた最強アイテムだった。 もちろん表向きの名刺である。 「祐羽、その名刺」 「うん。九条さんのだよ。お父さん、これで旅行OKしてくれるでしょ?お願い、行きたいんだ」 香織が横から名刺を覗き込んだ。 それを亮介が「見せてみろ…!!」と横取りして、名刺に厳しい視線をやった。 『株式会社 KUJYO 代表取締役 九条 一臣』 「は?え?…KUJYO…?」 自分の会社の大手の取り引き相手に亮介はポカーンと名刺を凝視。 「ぐ…っ、クソォッ…!!」 「「!!?」」 暫くして亮介がダンッといきなりテーブルに両手を叩きつけた。 それから黙ったまま暫し経過。 「…ま」 「「ま?」」 「負けた…」 負けたって何? 「あら~やだぁ…!!九条さんって、KUJYOの社長さんなの?!凄いじゃない!!」 名刺を掠め取った香織は九条の肩書きを見て一気に熱を上げた。 キャーキャー凄い凄いと嵐の様に叫び興奮したまま香織は亮介に視線をやった。 「確か、前にお父さんが言ってた大手の取引先だったわよね?!」 「ぐ…っ、…っ」 話を振られたが、亮介は二の句が告げない。 「祐羽~玉の輿のチャンスじゃないの~!!」 「お母さん…」 香織の突拍子もないセリフに祐羽は困惑した。 「誰が玉の輿に乗るんだっ!!?祐羽はどこにもやらんぞ!!」 「も~あなたってば、冗談でしょっ!」 「冗談でも言うな!!縁起でもない!!」 怒鳴る亮介に香織がブーッと口を尖らせる。 「…名刺見せない方が良かったのかな?」 自分の嫁入りという有り得ない言い合いを始めた両親を眉を垂らしてただ見守る祐羽なのだった。

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