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そんな祐羽を乗せた車は市内を走り思いの外直ぐにホテルへと到着した。
白を基調とした空へ向かって高いそのホテルの車寄せに着き祐羽達が降り立つと、直ぐにホテルのスタッフが数人出迎えに来た。
「ようこそお越しくださいました。マネージャーの河内といいます」
「よろしく頼む」
「お部屋までご案内致します」
九条の言葉に河内は丁寧に頭を下げて、先導していく。
祐羽達以外に他にも客は居た。
しかしこうして数人、それも上の人間らしきスタッフが出迎えに来たのは自分達だけの様だ。
スマートに案内する河内だが、他のスタッフには少しの緊張感があった。
九条の存在は思いの外大きいことが伺えたが、祐羽は気づくことは無かった。
そして高級感漂うホテルに似つかわしくない祐羽の出で立ちと落ち着きの無さに、ホテルスタッフも興味を惹かれて然り気無く見つめている。
そんなことにすら、全く気がつかない祐羽は九条に続いて建物の中にトコトコと入った。
「わ…ぁ…」
祐羽は、きらびやかな広いホールに思わず目を見開いた。
同時に声が漏れ、こんな場所ではまずいと気づき、慌てて小さくする。
白く輝く床には自分が映りそうな程で、天井から下がるシャンデリアは光を纏ってキラキラと輝き、中央にある大階段は左右に分かれており、映画の中にでも入り込んだかの様だった。
う、目がチカチカする…。
祐羽は眩しくて目をシパシパさせた。
それからキョロキョロしていたが、ふと周囲からの視線を感じる。
あっ、もしかして他のお客さんから落ち着きないって思われてる?
僕はいいけど、九条さん達は恥ずかしいかも…っ!?
九条の恥にならないようにと祐羽は視線を一点に向けると、このホテルに泊まるに見合う様精一杯賢そうな顔をした。
本人的にはキリッとしているつもりの不自然な顔の祐羽に気づきつつも、誰も一切触れないままエレベーターへ直行する。
祐羽と九条、他数名だけを乗せたエレベーターは、そのまま滞在する部屋のある上層階へと向かった。
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