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祐羽がしんなりしたのを見た九条が優しい顔で抱き締めてくる。
「悪かった」
絶対本心は楽しんでいるに違いない九条が、反省を口にした。
「機嫌を直せ」
「…」
「これから出かけるのに、楽しくなくていいのか?」
こんな気持ちにさせたのは九条なのに、まるで自分が悪いという気持ちにさせてくる。
卑怯だと思うけれど、元からそんなに怒っていないうえに、出かけるのに喧嘩みたいなままだなんて楽しくないのは本当だ。
九条の簡単な心理作戦にまんまと嵌まった祐羽は、直ぐに妥協案を持ち出した。
「…じゃぁ、約束してください」
「フッ、約束だと?」
言ってみろと尊大な態度で九条が顔を見つめてくる。
「出かける前に、ああいうこと、しないで下さい…お願いします」
「ああいうこと?」
ここでまた九条がすっとぼけてみせる。
「!!~~~っ、だからっ、キスとかエッチなことですよ!もうっ!!言わせないでくださいってば~やだぁ~」
僕、恥ずかしいって言ってるのにぃ…!
顔を染めて泣きそうな祐羽に九条は大満足といった様子で、性懲りもなく額にキスを落としてきた。
チュッという軽いリップ音に祐羽が頬を染めて額に手を当て九条を見上げた時だった。
ピピッピピッ、ピピッピピッ、ピピピピピーーーーーッ
電子音が鳴り、ふたりは顔をそちらへ向けた。
「あっ!時間だ!!」
祐羽がスマホに設定しておいたアラームが鳴り、出発10分前を知らせていた。
九条の腕からシュルンッと抜け出した祐羽は、アラームを止めるとスマホを鞄に仕舞った。
「九条さんっ、時間です!もう準備して出ましょう!!」
キスの余韻はどこへやら。
祐羽はワクワクと出発の最終準備に取りかかった。
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