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・・・・・小一時間後。
美味しい鉄板焼きのお店で食事を終えた一行は、宮島口へと向かった。
祐羽達の乗る黒の高級車の前後は目立たない様に国産メーカーの車に分乗しているものの、明らかに怪しい車列になっていた。
「わ~駐車場、車多いですね」
窓から外を見た祐羽は、駐車場に並ぶ車の多さに目を見開いた。
「車、停められますかね?」
観光シーズン真っ只中。
さすがに観光客の人数は普段より断然多く、駐車場も混んでいる。
誘導されて順に入る為、少しずつ進むしかない。
駐車場に入るにはあと少し時間が要りそうだった。
「おい」
「はい」
九条に声を掛けられた眞山が返事をする。
「アイツらは待機だ」
アイツらとは後方の車に居る組員達だ。
駐車場が満車に近いうえに、大人数では悪目立ちしてしまう。
そうなると祐羽も不必要に注目を浴び楽しめるものも楽しめないだろうという九条の考えだ。
「しかし…、」
眞山は若干戸惑いを含んだ声を出した。
ここは自分達のシマとは違うのだ。
そして、今回ここまで来たのには訳がある。
九条が祐羽を旅行に連れて行ってやりたいという思いもあるが、それだけではない。
他組織の祝いの席へ顔を出す為だ。
そこには複数の組織のトップが一堂に集結する。
その中には九条の存在を面白く思わない輩も居るのだ。
まさかこの観光客でごった返す場所で拳銃をぶっぱなす様な暴挙には流石に出ないとは思うが、用心には用心を重ねたい。
「待機だ」
「…はい」
九条が大丈夫だと言えば大丈夫なのだろう。
自分より強く勘の働く九条が易々と敵に倒される事など…。
とはいえ、眞山や部下は気を抜くことは出来ないのだ。
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