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そんな九条達のやり取り等に全く気づいていない祐羽は、誘導されて進む車の窓から見える何の変哲もない駐車場の景色に目を奪われていた。
「あっ、凄い。あの車、大阪から来てる。あっちは、栃木だ」
車のナンバープレートを読みながら楽しんでいる姿は、まるで子どもだ。
祐羽には渋滞や待ち時間さえも面白いらしく、その様子を眞山と柳は少し呆れた気持ちで見ていたが、九条からは楽しんでいる雰囲気が流れていた。
漸く駐車できて車から降りた祐羽は、九条と並びフェリー乗り場へと向かった。
歩きながら、ふと組員の人数が減っていることに気がついた。
「あれ?他の組員さんは…」
疑問に思い訊ねると、他に急用が出来たとのこと。
修学旅行の様に皆で楽しめるものもと思っていた祐羽は、自分だけ観光出来ることを少し申し訳なく思った。
「えっ?!そうなんですか?せっかくそこまで来てたのに…」
「用が終われば好きにしろと言ってある。自由時間だからアイツらも楽しむだろう」
という嘘を祐羽はまるっと信じて頷いた。
組員に自由時間とは言ったが、フェリー乗り場付近で交替で待機だ。
他の組も同じ様に観光しないとも限らない。
しかし、この大切な行事がある前に、駆け引きだ何だと忙しい同業者が呑気に観光することは絶対にない。
現に、各組長の動向は組員をつけて監視させている。
まだ広島の主だった観光地へ足を向けたという情報は入っていない。
こんなにも気楽に観光をしに来ているボスは、関東で覇権争いトップに立つ旭狼会の九条だけだろう。
そんなわけで、一般人の中でもどんくさい恋人を連れての観光も今のところは問題なかった。
九条には面倒な親分連中と顔を合わせるよりも、おもしろ可愛い恋人を眺めている方がよほど有意義であった。
「わ~フェリーだ~!って。あっ、チケット!」
そうだ。チケット買わなくちゃ!
乗船チケットを買うのに祐羽が「えっと、何人ですかね?1、2、3、」と人数を数え始めたが、既に他の組員がひと足早くチケットを買い戻って来ていた。
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