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「あっ!あそこのお店です!!」
かき氷で寒い地獄から抜け出した祐羽が回復して指を差したのが、広島名物のまんじゅうを揚げたお菓子を売っている店だ。
大勢の観光客で溢れているが、ここは外したくない。
初めて知った時は「えっ、おまんじゅうを揚げるの?」と驚いたが、大人気と聞いては行くしかない。
しかし、混んでいるので九条は嫌な顔をするかもしれないと伺ってみる。
「美味しいって人気なんです。ちょっと待つかもしれないんですが…ダメですかね?」
ゴキュリと唾液を飲んだそんな自分の顔を九条が黙って見おろしていた。
「わ~!!」
注文を済ませ串に刺された揚げまんじゅうを手にして思わず声を小さく上げた。
自分はカスタードクリーム味で、九条は要らないと言ったが、祐羽の推しで抹茶を選択。
他の組員も普通の餡を注文して皆で食べる。
揚げたて熱々のまんじゅうの味はとても美味しくて、1個をペロリと食べてしまった。
こんなことなら2つ頼めば良かった…と思う祐羽の気持ちが表情に出ていたのか「食うか」と九条がひと口噛ったまんじゅうを差し出してきた。
「えっ、いえ。九条さんのですから九条さんが食べてください」
魅力的な申し出だが、そこは遠慮する。
自分の物は食べたのだから図々しく人の物まで食べるなんて出来ない。
その結果「食え。俺の食いかけは口に出来ないか?」と聞かれてしまう。
表情は変わらずとも少し寂しい雰囲気を目に浮かべた九条に思わずハッとする。
「そんなことは、」
「なら食え」
「むぐっ!」
そんなことはない。と言う間に九条から無理矢理まんじゅうを唇に押しつけられウリウリされては口を開けるしかなく。
揚げられたまんじゅうモグモグと食べながら、強引な九条に勝てる気がしない祐羽だった。
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