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厄災
祐羽達が宮島を後にしたのは、写真を全員で撮り終えて直ぐのことだった。
明日のことを考えて元から早目に戻る予定ではいたものの眞山の携帯に連絡が入った為、足早な観光になってしまった。
本島に戻ると前もって他の組員が回しておいた車がロータリーに待ち構えており、素早く乗り込む。
それから注目を浴びた車はそれを避けるように、スピードを上げた。
「満足したか」
今夜外せない予定が入ったと知り、忙しいのは承知していたものの少しガッカリしていた。
しかし九条にそう問われて、祐羽は気持ちを切り替えて素直に頷いた。
「はい!厳島神社は凄く荘厳でしたし、大鳥居も大きくてビックリして。本当に楽しかったです」
「そうか」
「はい。連れてきて下さってありがとうございました」
祐羽が頭をペコリと下げると、上から大きな手の平が髪を優しくかき混ぜた。
それだけで九条の(それなら良かった)という心の声が伝わってくる。
祐羽はされるがままに受け止めた。
これもなかなか感情を表に出さない九条との貴重なコミュニケーションのひとつと思っていた。
そんな九条と祐羽のやり取りのお陰で、夜の予定を控えて少しピリピリムードだった車内には、少しホッとした空気が生まれていた。
「後は頼む」
「はい。お気をつけて」
九条の言葉に中瀬や他の組員が頭を下げた。
ホテルに戻った九条は旭狼会の関係で、祐羽を中瀬達に任せ出掛けて行った。
本当ならばディナーを一緒にするはずだったが、こればかりは仕方ない。
組の今後に関わることだからだ。
「九条さん、あのっ、気をつけて行って来てください」
祐羽はそう声を掛けると、車が見えなくなるまで見送った。
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