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「はぁっ。目出度い席じゃいうても、早く退散したいわ。俺も遊びに行きてえなぁ…」
紫藤がスマホを眺めながら大きく溜め息をついた時だった。
控えの部屋に黒いスーツの長身の男が部下を連れて現れると、紫藤があからさまに嫌な顔をして見せた。
その様子に九条も誰が来たのかを察して、そちらに体ごと向きを変えた。
「元気だった?相変わらず仲の良いことで」
「塔ノ沢 …」
紫藤が忌々しげに名前を呼ぶ。
そこに居たのは塔ノ沢 京 という長身の男で、落ち着いた茶髪が整った顔に似合う爽やかな甘い雰囲気を漂わせる姿は若い女子が好むタイプだ。
「紫藤とはたまに会合で会うけど、九条は久し振りだね」
「…」
特に会いたくはないので、面倒もあって九条は黙っておく。
塔ノ沢は『五代目橘高組』の組長息子で、紫藤と同じく本部長を任されていた。
九条は関東、紫藤は西日本で塔ノ沢も西日本に本拠があるので会う回数はグンと減る。
それに加えて九条は表家業に重きを置いている為、さわりの無い会合には組長代行に向かわせているので会うのは本当に久し振りだった。
こうして九条や紫藤と並ぶと迫力のある高身長な美形が揃う。
若手、やり手、そして顔も良いのでヤクザの世界でも有名な三人だ。
九条と紫藤は従兄弟同士でそれなりに仲も良いが、この男は特にそんなことはなく紫藤などは特に避けたいと思う相手であった。
「そういえば外崎は?今日は居ないの?」
塔ノ沢は外崎を気に入っている様で、会う度にネチネチと毎回絡んで来る。
あからさまにいやらしく見つめるし、通りすがりにセクハラ紛いなこともする。
他の年配組長も外崎の美貌にご執心で言葉でからかったり、たまに尻を撫でたり等もあるが紫藤が側にくっついていればそれも殆ど無いし、そこまで酷くはない。
しかしこの男、紫藤が側に居てもお構い無しで隙を見つけては外崎をからかって楽しむ質の悪い輩だった。
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