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「来い」
「痛っ…!」
骨が折れそうな力で腕を持って引っ張り起こされ後ろ手に纏められた手首が痛くて堪らない。
「歩け」
少し抵抗してその場に踏ん張ろうとするが無駄な抵抗に終わった。
既にボロボロの祐羽は歩くというより半ば宙を浮くように引っ張られて、僅かに明かりの漏れる建物へと連れて行かれる。
視界に入るのは建物と鬱蒼と繁る木々、それから周囲は真っ暗な無の世界。
その空間は、まるで自分を飲み込む悪魔のように思え祐羽はゾクッと体を震わせた。
普段使っていない様子の少し古い建物は家というよりは保養所か何かだろう作りだ。
夏ということもあってか入り口付近の灯りにたくさんの虫が集まっていた。
「チッ、虫邪魔くせぇな」
男が愚痴りながら玄関から祐羽を引摺りながら入って行く。
廊下のすぐ先に広いリビングがあり、そこに強面の男達が数人居た。
そこに中瀬と外崎の姿が見当たらず動揺してしまう。
どこに居るのかと視線を巡らせると、先ほど車で暴力を振ってきた加藤も居る。
その加藤の視線が自分に向けられてビクリと体を強張らせた祐羽は顔を床へと落とした。
視線が合っただけでも加藤の機嫌を損ねそうだったからだ。
「おうっ、奥の部屋に入れとけ」
「うっす」
指示を受けた男はそのままリビングを抜けて奥へと連れて行くと部屋の前で止まる。
入り口には別の男がひとり立っていたが、祐羽を見るとドアを開けた。
「入っとけ」
「!!」
放り投げるように部屋へと祐羽は押し込められて、バランスを崩しそのまま床へ強打する覚悟を決める。
「祐羽…!」
倒れる寸前に中瀬の声が聞こえ同時に受け止められた。
「おいっ、大丈夫か!?」
「大丈夫ですか?!」
中瀬と外崎が心配そうに顔を覗いてきて、祐羽は安堵の息を吐いた。
それと同時にドアに鍵の掛けられる音がして、思わず全員でそちらへ視線をやった。
「良かった…。お前がなかなか来ないからマジでどうしたか心配してたんだぞ」
中瀬が今にも泣きそうなクシャッとした顔を見せるので、祐羽も思わず貰い泣きしそうになりウルウルしてしまう。
それを見て中瀬は気持ちを強く持たないといけないと思ったのか、手の甲でグイッと目元を拭ると「泣くな」と偉そうに祐羽の目元も拭う。
そんな中瀬とエヘヘと笑い合って漸く涙がなんとか止まった。
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