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「朝までトイレ我慢出来ないから、三人で今のうちに行っておこうかと…。だから行かせてくれ」 少し考えてから、男は面倒くさそうに溜め息を吐いた。 「行け。漏らされても困るからな」 「どうも」 中瀬がホッとしながら礼を述べるが、男は条件をつけてきた。 「だが、ひとりずつだ」 「「「えっ?」」」 予想外の答えに言葉に三人は同時に戸惑いの声を漏らした。 「順番だ、さっさと来い」 「ちょっ…!」 強引に腕を掴まれ、男に引っ張られる。 「中瀬さんっ!!」 「中瀬くん…っ!!」 そう言って中瀬が引っ張り出されると同時にドアがバタンと閉められ鍵が掛けられる。 呼び止めようとした祐羽と外崎の声はドアの音へと吸い込まれ、室内は静寂が走る。 「中瀬くん…」 「中瀬さん…大丈夫でしょうか?」 「うん。きっと大丈夫だよ。それより、祐羽くんは大丈夫?」 言われた意味が分からず考える仕草を見せると、外崎は小さく笑った。 「もう少し大丈夫そうだね、トイレ」 「あ!だ、大丈夫です」 すっかり中瀬の心配で尿意が一旦落ち着いている。 「トイレより、中瀬さんの方が気になりますもん」 「だよね。よし!……やっぱり聞こえないか」 外崎がコソコソとドアに張り付いたが、外からは特に何も聞こえないらしい。 祐羽は外崎とドアの側で不安を抱きながら立ち尽くした。 男に連れ出された中瀬は、まさか一人ずつにされるとは思わず内心舌打ちしていた。 相手が警戒しての行動という事は分かるし、自分がこの男の立場でもそうしただろう。 自分はいいが、せめて祐羽には付き添いたい。 ヤクザの男からの慣れない圧に加え、先程の暴力から未だ心の傷は癒えていないだろう。 そんな祐羽をひとりで行かせる訳に行かず、その時は頼み込もうと決めて廊下を歩く。 トイレは中瀬達の部屋の向い側、玄関より奥にあった。

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