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外泊の時でも必ず当日にメッセージを送ってくれ、遅れたとしても祝いの言葉と共にプレゼントをくれる紫藤。
嬉しいけれど、哀しくなる。
決して外崎の願望は叶わないのだ。
「外崎さん。大丈夫ですか?」
「え?」
つい、ぼんやりと自分の世界に堕ちていたらしい。
「大丈夫だよ。懐かしいなぁって、ちょっとボンヤリしちゃった」
心配そうに見つめる祐羽の頭を『いいこいいこ』と優しく撫でてやる。
祐羽くん。九条さんと、いいなぁ…。
大切にして貰ってね。
外崎は自分の想いの分まで、祐羽に幸せを託すのだった。
◇◇◇◇◇
動物園はとても広く、じっくり見るタイプの祐羽と外崎のお陰で半分しか見る事は叶わず。
もちろん早く歩いて流し見る意味は無いので、それでいいのだが。
結果、また来ようということになった。
夜はファーストフードをテイクアウトして、九条宅のダイニングで食べた。
それからテレビを観ていれば、漸く九条達が帰宅したのだった。
「おかえりなさい!」
迎えに出た祐羽は、いつもなら走って飛び付くところだが、人目を気にして大人しく迎えた。
「それじゃぁ、僕は帰るね。九条さん、お邪魔しました」
外崎が頭を下げると同時に中瀬も「失礼します」と挨拶をして「また明日」と祐羽に別れを終えて、静かに玄関のドアを閉め帰って行った。
半日ぶりに再会した祐羽は、九条が帰って来てくれただけで単純に物凄く嬉しい。
改めて顔を見上げて「おかえりなさい」と伝えると、九条が身を屈めてチュッと軽いキスをくれる。
キスだけで相変わらず頬を染めてしまう浮かれ気味の祐羽は、九条にエスコートされてリビングへと戻った。
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