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「飯は食ったのか?」 「はい。今日はマッキュを買って帰って食べました。九条さんは?」 「俺も済ませた」 そう言うとネクタイを緩めながらリビングを出て行き、暫くしてスーツとネクタイだけ外して戻って来た姿はラフながらも仕事終わりの色気がある。 大人の仕事が出来る男といった姿には、やはり憧れしかない。 「九条さん、何か飲みますか?」 「水をくれ」 僅かに疲れた様子を見せる九条に冷たい水の入ったグラスを渡し、自分はお茶を入れてテーブルにそれぞれのボトルを置くと隣に座った。 九条は軽く二杯飲むと、身をソファの背に預け深く息を吐き出した。 「あの…大丈夫ですか?」 いつもより疲れ気味の様子に心配になり声を掛けると、九条に抱き寄せられた。 「…少し疲れたかもな」 何があったのかは知らないが、祐羽が訊いても分からない事だろうし、九条が言わない事を敢えて聞き出すのも、と口を閉じた。 そうして抱き寄せられた格好で大人しくしていれば、今度は抱き上げられ膝の上に横向きで乗せられた。 顔が近く視線が合って思わず照れ笑いをしてしまった祐羽の笑顔につられたのか、九条が疲れた顔から少し柔和になる。 「今日は動物園に行ったらしいな。楽しかったか?」 行き先は報告してあり、途中で撮った写メも送ったのである程度は九条も知っているが、口で話すのは訳が違う。 「はい、とっても楽しかったです!人が多かったんですけど、」 思い出しながら楽しそうに話す自分を九条が黙って聞いてくれる。 時折「そうか」と相槌を打つ以外は、祐羽の声だけが響いた。

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