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事務所
祐羽は先導する男の後ろを二人の男に挟まれて歩いていた。
きっちりと挟まれていて、時々顔を近くで覗かれたり肩を抱かれたりと戸惑う事ばかりされるので、その度にビクビクしながら足を進める。
祐羽の表情が曇っていくその様子も男たちは楽しいようだった。
黙って歩き始めて五分位すると、さっきよりもきらびやかな店舗が立ち並ぶ通りについた。
目にも毒なネオンの洪水に溢れ、周囲には祐羽に縁の無さそうな大人の社交場が客を誘っている。
色気を振り撒く胸を強調した女のパネルがドンと飾られていて、免疫の無い祐羽は顔を赤くした。
パネルの女達は豊満な白い胸を強調する様に腕を組んで挑発的な視線でこちらを見ている。
祐羽は恥ずかしくて何処に顔を向けていいのか分からず視線を外した。
他に視線を向けてみると、あちこちで勧誘の声が上がっている。
とある店先に立って看板を掲げた男が通り掛かるサラリーマンに声を掛けていたが、祐羽を連れている男達を見て慌てて頭を下げてきた。
「ご苦労様っス!」
「おうっ。どんどん鴨を引っ掛けろよ!」
看板を持つ男に返事をすると、男は店の横にある階段を上っていく。
電灯が古いのか、薄暗い不気味な階段だ。
見上げると階段の踊り場にある電灯が、ジリッジリッと音を立てて、今にも切れそうになっている。
男たちの影がユラッと揺れる
この先は、何だかマズイ気がするのは間違いではないだろう。
祐羽は、ごくっと唾を飲み込んだ。
この人達に着いていったらダメだと思うのに、足が思うように動かない。
「オラッ、行けよッ!」
躊躇する祐羽を許さないと、男が後ろから小突いて来た。
益々怖くなり戸惑うが、肩をガッチリと抱かれそこからは無理矢理抱えるようにして、階段を上がらされてしまう。
そして二階に着くと『スター・ライトローン』と書かれたドアのノブを男が回す。
どうやらここが目当ての場所らしく、開けられたドアの向こうへと押しやられた。
「あっ」
背中を押され声を溢した祐羽に部屋の中に居た人間の視線が集まる。
そこは事務机が並ぶ殺伐とした室内で、机の上には電話と書類、そして複数のパソコンが置かれていた。
薄暗い室内にはカタギではなさそうな顔をしたスーツ姿の男達が五人。
「うーっす、戻りました~!」
肩がぶつかったと言っていた男が大きな声で帰社を告げると、机で煙草をふかしていた男がしかめ面を見せる。
「田辺。声デケェよ、馬鹿野郎」
「すんませんっ」
田辺と呼ばれた男は、反省した様子は微塵もなく笑いながら応える。
部屋にいた別の男が椅子に背を預けながら、田辺から祐羽へと視線を移した。
只でさえ恐怖からビクビクしていた祐羽は、体がブルブルと震え始めていた。
「おうっ、ソイツは何だ。あ?」
「いや、コイツが俺の肩にぶつかってきやがったんですよ。なんで、ちょっと落とし前つけてもらおうかと…」
落とし前とはどういう事だろうか。
ここには書類を受け取りに来ただけの筈だった。
「ふんっ。確かにカワイイ顔をしてやがるなぁ…」
男がそう言うと、周囲の男達もニヤニヤとした顔で祐羽を見ている。
「そうでしょ、岡田さん。ただ男ってのがどうかと思うんすけど、これなら変態からの需要たっぷりかと…」
その言葉に祐羽は顔面蒼白になる。
益々、話の雲行きが怪しい。
「男かぁ…俺は無理だな」
別の男がボソッと言いながら祐羽を見た。
ビクッと反応を示した祐羽に、男がニヤッと意地悪く笑った。
「小林~お前いっぺんくらい男経験してみろ‼なかなか悪くないぞ」
「可愛いか美人か、男でも綺麗なヤツ居るからイケますよ‼」
田辺が小林に笑顔でとんでもないセリフを吐く。
「上等、上等~!男でも女でも裸に剥けば同じよ!
岡田が笑いながら言うと同時に、奥の扉が勢いよく開き、祐羽は今までで一番ビクリと肩を揺らせてソチラを見た。
そこから出てきたのは、色のついた眼鏡をかけた中年太りと態度が大きな男だった。
「うるせぇ…おめぇら何を騒いでる‼」
「社長…!」
男達が一斉に頭を下げる様子に祐羽の恐怖心が益々募る。
「おっ?何だソイツは」
その男は、祐羽の姿を認めると直ぐに詰め寄ってきた。
「落とし前って事で、連れてきました」
田辺は得意気な顔でそう伝える。
「なるほどなぁ~」
社長と呼ばれた男が祐羽の全身を舐めるようにして見てくる。
「よぅし、俺が体の具合を確かめてやらぁ…」
社長と呼ばれた男が下卑た笑いを溢しながら、祐羽の顎を捕らえた。
「ふんっ。男でも構わねぇ…。ちっと乳臭いガキだがな」
社長と呼ばれた男は、再び舌で自分の唇を舐めながらいやらしく笑う。
「さすが社長 ‼ 男でも顔さえ良ければ遠慮なしですね‼」
「あとで俺達にも恵んで下さいよ」
「おう、分かった分かった。お前ら仕事サボるんじゃねぇぞ‼」
茶化すような部下のことばに、男は笑いながら横柄に頷いた。
もう既に祐羽の頭は真っ白だった。
何でこんな所へ着いてきたのか、この後一体どうなるのかと頭はグルグルと色々な事を巡らせる。
しかし高校生の祐羽が考えを巡らせたところで何の解決策も見いだせない。
「よし、こっちへ来い…!」
大きなグローブの様な手で、男が祐羽の腕を掴んだ。
そこでハッと我に返って抵抗を試みる。
「や、やだっ!嫌だ!」
男に奥の部屋へと引っ張られる。
全身を使って抗うも、それは無駄な抵抗だった。
非力な祐羽が男の力に敵うはずもない。
「やぁ…っ!」
祐羽は隣の部屋へと押し込まれると、そこに置いてあったソファへと投げられた。
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