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それには一切気づかない祐羽は、手の平サイズのぬいぐるみをムニムニさせて手触りを楽しむのがここ数日で癖になりつつあった。 「よし、外出るか」 「はい」 そうして田中と外へ出ようとした祐羽は、「おい、ちょっと皆に話がある」という声に足を止めた。 その人物は、新部長に抜擢された二年生の丹羽《にわ》だった。 なんだなんだと、帰り支度を済ませ部室を出ようとしていた数名が戻って来た。 いつも全員で門までは帰るのだが、改めて部室へ留める理由とは何だろうかと祐羽は首を傾げた。 「新体制になって一ヶ月以上経つんだけど、宇佐美先輩達が時々練習見に来てくれるから何も思わなかったんだけど、部活引退のお礼なーんもしてなかったなって思ってさ」 それを言われて、祐羽は宇佐美達を思い出す。 九月に入り少し引き継ぎ期間を設けてから、前部長の宇佐美や高橋ら三年はバスケ部を引退した。 時々練習を見に来てくれているが、もう引退している。 引退の日に体育館で部員全員で「ありがとうございました!」という挨拶はしたが、あれだけお世話になった三年生に何も返して居ない事に気づいた。 「そろそろ先輩達も受験に本腰入れなきゃだろ?そしたら、なかなかもう部活に顔もだせなくなるし…ってことで渋谷達と少し話合って、宇佐美先輩達に感謝の会みたいなのやろうって決めた」 「で、先輩達が練習見に来てくれる明日の金曜に予定変更してカラオケ行こうと思う」 「やっぱりカラオケか~」と笑い声が上がる。 「バーカ!安くて時間を気にしなくてよくて、騒げて、飯食えるのはカラオケしかねぇだろ!お前の家、提供してくれるならいいぜ」 「それ無理ーっ!」 「だろ?」 渋谷が笑いながら返した。

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