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すると待ちに待っていたらしい祐羽が檻の中の熊の様にウロウロしていた。
その姿を見ているだけでも面白く眺めていようと思ったが、気づいた祐羽が「九条さん、早く来てください」と手を引っ張りに来た。
気配を消しておくんだったと少し後悔が過る。
「では、まずはこれを投げてください。玉入れゲームで、景品はこちらになります」
この歳になって玉入れゲームを家でさせられるなんて思ってもいなかった九条は、最悪な展開だと無になる。
いくら愛しい恋人の願いとはいえ素直に従えない。
これが家族で子どもと一緒にやるならまだしも、ふたりきり。
おまけに、だだっ広い部屋の一角にちまっと用意された手作りコーナーで玉入れをするなんて、部下に―従兄弟の隆成には特に見られたくない。
絶対に笑われるだろうし、もっと大騒ぎしてパーティー規模に広げそうだ。
ハロウィンとは勝手が違うと九条が固まっていると「九条さん?」と不安そうな声がする。
視線を向ければ祐羽が悲しそうな顔で自分を見ているではないか。
九条は思わず小さく溜め息をついてしまうが、祐羽には幸い聞こえてなかったようだ。
「入れればいいのか」
「そうです!あの中に入った数でそれぞれ景品があります!!」
一気にパアッと明るくなった祐羽が嬉しそうに説明をしてボールを渡してくる。
壁に貼ってある紙には景品が示されており、五個入れると景品全てと晩ご飯のおかずが二個に増えるらしい。
ちなみに「今夜のおかずはハンバーグで、コネコネして作ったんです。チーズを入れてみました」と鼻息が荒いので、九条はもちろん五個狙いで見事ゲットした。
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