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選択
書類にサインをしてしまった。
元々、自分はただスマホを受け取りに来ただけだ。
それが何故か訳の分からない契約書にサインをさせられてしまい、こうして迫られていた。
「月ヶ瀬くん。さて、君はどうするかな~?」
「…」
座らされた椅子は居心地が悪い。
握った手からは、変な汗が出ていた。
「どっちがいい?選ばせてあげるよ?」
提示された内容は、どちらも祐羽が頷ける内容では無かった。
「で…出来ません…」
ひとつ目は、所謂オレオレ詐欺の様なもの。
もうひとつは、客に対して性的に体を売るというものだった。
祐羽は家庭環境も影響してか、本人にも幼いところがあり、性的に疎い。
また、ゴミのポイ捨てや何も来ない道でさえ信号無視は出来ない性格で、犯罪は絶対に駄目だと思って生きてきた。
そんな自分が今、犯罪か非道徳的な事に足を踏み入れる選択を迫られていた。
「出来ません、じゃないよ~。やって貰う前提で選ばせてあげてるんじゃん」
俺って優しい、なんて言いながら森田が笑っている。
「おいおい、選ぶも何も無いだろ」
近くで書類らしき物と格闘していた男が、ふと顔を上げてそう言った。
「そうだな。ソイツは風俗一卓だろ」
別の男も楽しそうに口を挟んだ。
「まぁ、確かになぁ~。演技下手そうだし、途中でウッカリ本当の事相手に話しそうだし…」
「まず、アイツらの所に仔犬を送り込んでみろ。容赦ないぞ。なら、最初からソッチの受容で金稼がせればいい」
そう言いながら津野が、祐羽をチラリと窺った。
すると、それまで思案していた森田が「よし、決めた‼」と声を上げた。
「未成年だし、サツが五月蠅いからな~。個人でやってる形を取らせて、紹介はこっちでするかぁ‼」
森田は取り上げていた祐羽のスマホを懐から出すと、ニマリと人の悪い笑顔を浮かべた。
「はい。大切な商売道具」
祐羽は、スマホに手を伸ばすことが出来なかった。
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