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夜の世界
無理矢理握りこまされたスマホを虚無感と共に見つめる。
これから一体どうなるのか。
想像もつかない酷い仕打ちが、待ち受けているに違いない。
祐羽の想像力は曖昧で、テレビで聞き齧った程度のものだ。
遠くもないが、合致しているとはいえない。
オレオレ詐欺は回避したとはいえ、もうひとつの仕事が待っている。
「おい。この番号を登録しとけ」
森田が言いながら紙切れを寄越す。
乱暴ななぐり書きで、数字が羅列されている。
「今度からこの番号から連絡が入ったら、お前は指定の場所へ行け」
「え…」
「え、じゃねぇよ。お前は連絡受けたらそこへ行って、お客相手に足開くんだよ」
森田がそう言うと、津野が楽しそうに笑った。
「セックスだよ、セックス‼」
「…せ、くす?」
祐羽の鈍い反応に、津野は益々前のめりに教えてきた。
「客とエッチな事をして、金をたっぷり貰うお仕事だよ~。エロオヤジが沢山可愛がってくれるぜ~。気持ちよくて、金を貰えて楽な仕事だ‼」
津野は笑いながら椅子の背凭れに、ふんぞり返った。
「よし。さっそく今日から客をとってもらうからな」
「えっ⁉ 嫌です‼それに無理です‼」
祐羽が唇を噛み締めながら抵抗すると、森田は顔を歪めて睨んできた。
「無理じゃねぇんだよ‼ 契約書にお前はサインしたんだ。だったら従うしかねぇだろうが‼ あぁっ⁉」
ドスの利いた恐ろしい口調で捲し立てられて、祐羽は恐怖から目尻に涙を浮かべた。
それでも睨み返すのを止めなかった。
「一回体売っちまえば、後は気にならなくなるからな‼ オラッ、こっちに来い ‼」
「わぁっ⁉ぐっ、う…っ」
華奢な祐羽は首根っこを掴まれると、苦しさからズルズルと森田へ着いて行く形になる。
「おい、俺だ。これから新人を客に提供するから、テキトーに見繕っとけ。十分したらソッチへ着く。じゃぁな」
祐羽を片手に引っ張りながら、森田はスマホで何処かへと連絡を入れ通話を終える。
「お前は若いから需要たっぷりだろうよ‼」
森田は今にも口笛を吹き始めそうな様子で、そう言った。
祐羽はここにきて、自分の浅はかさに気がついた。
こうして、いち高校生である祐羽は、夜の闇へと突き落とされるべくネオンの街へと背中を押されたのだった。
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