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第1話 突然の話

青い空が果てしなく続いていた春の日。幼馴染の海人とカラオケに行った帰り道に、昔からよく遊んでいた公園に立ち寄った。その公園には桜の木が植えられており、傍にあるベンチに座って何気ないことをよく喋っていた。 まだ、緑しかない桜の木があった。今年も海人と満開の桜を見ることができるかなと思っていた。 「なあ、結城。話があるんだ」 海人が脚を組んで話しかけた。 「なんだよ。改まって」 「結城は大学受験するんだよな?」 今まで避けてきた話題であり、いざ話すと緊張してしまい冷静さを装って答えた。 「そのつもりだけど、どうかした?」 声が震えたような気がしたが何も言われなかったからきのせいだろう。 「どこ受けるんだよ?」 「○○大学だよ」地元の中では1,2を争う優秀な大学名を挙げた。 「さすが秀才な結城様は学校で底辺の俺とは違いますな」 確かに僕と海人の成績は雲泥の差である。でも僕は頑張れば届かない目標ではない。一緒に行きたいことをさりげなく伝えてみた。 「...まあ、ここは今から海人が勉強すればぎりぎり行けるかどうか、、」 「っでだ、今まで嫌々付き合ってもらってたけど結城と遊ぶのやめるわ」 僕のさりげない勧めは耳に入ってないようだった。そして僕の耳には思ってもいない言葉が入ってきた。 「えっ、なんだよ、急に」 それよりも、一緒に同じ大学を目指そうと誘いたかった。 「いやー結城の受験勉強を邪魔しちゃ悪いし」 「けどまぁ、合格したら盛大に祝ってやるから頑張れよ」 「海人も女遊びはほどほどにしとけよ。いろいろやらかして卒業できないとかほんと恥ずかしいからな」 僕は売り言葉に買い言葉。海人のことを茶化して有耶無耶にしてしまった。海人が卒業後何をするのか聞こうと思っていたのに。 「大丈夫だよ、成績は怪しいけど欠席は一度もしたことないしさ」 「それじゃあ、勉強頑張れよ」 海人は僕の肩を叩き、馴染の公園を後にした。 僕は一人公園のベンチに座り春にしては肌寒い風にあたりながら、少し昔のことを思い出していた。 海人は僕の幼馴染で、小さい頃から僕は海人のことが好きだった。 付き合いは幼稚園に通っていた時だった。海人が僕に遊ぼうと声をかけてきたのが始まりで、小学校も中学校も同じところに通っていた。 中学2年生のとき初めて海人に彼女ができた。学年で一番可愛いと言われるマドンナとの交際だった。彼女の猛アタックにより開始され、ルックス、運動神経ともに抜群な海人との交際は順当なものだと噂されていた。僕はそのことを喜ぶ半面複雑な気持ちだった。たった一か月で別れたが、僕は海人を奪われたと嫉妬していた。そのころには海人のことが好きだったのだ。僕が目立たない存在でも気にかけてくれる海人のことが。 そこから、海人のどんな行動にも胸を動かす日々が始まった。海人がバスケでシュートを決めるとき。黒板消しを手伝ってくれるとき。笑った時に見える八重歯も。前髪をかき上げる姿も。 そんな幸せな日々が失われようとする出来事があった。それは高校受験である。海人の成績は中の下で僕は上位層。僕の目標とする高校には受かるかどうか危ない成績であった。僕は海人と離れるのが嫌で毎日教えて、海人は何とか補欠で合格した。高校に入ってからはいろいろな人と遊ぶようになった。それでも、登校は一緒で、学校では僕といたし。たまに僕と遊んでくれるその日が幸せだった。 その一方で当たり前のように海人の成績は急降下。卒業も怪しいのではと言われる成績となっていた。それでも僕は海人に勉強を教えて同じ大学に行くつもりだった。さっきの話の時に提案しておけばと後悔が募った。 高校三年初めての登校の日、いつもより早い時間に家を出ていつもの公園に寄り道をした。公園の桜は満開だった。初めて海人と見ない桜だ。風は桜を上から散らし、花びらの絨毯が敷かれている。 学校に行くと昇降口前に掲示板が設置されており、前の方には人だかりができていた。おそらく、クラス分けの発表であろう。掲示板に近づいてみると予想通りだった。 「新井」の苗字である僕は一組に自分の名前を見つけることができた。そこから流れるように名前をさらっていくと一組の後ろの方に海人の苗字を見つけた。高校に入って初めて海人と同じクラスであると分かりその場で叫びたいほど嬉しかった。授業の合間の休み時間も海人と過ごせると胸は高鳴った。 けれども海人は僕に話しかけることはなかった。弁当も今まではクラスは違ったが海人と食べていたのに、今は一人で参考書を眺めながら箸を動かす毎日である。海人が春休みに言った言葉は本当であると思い知った。つい最近まで海人と過ごしていたことを思うと寂しい。 海人と受験勉強を夢見ていたが諦めることにし僕は勉強机へと向かった。学校と塾と家の往復で僕の日々は過ぎていき夏休みの初めまでに模試でB判定を取ることができた。 蝉の鳴く声が騒がしい夏休みに入り、受験勉強も勝負の時期となった。昼の暑さをアスファルトが吸収していて夜。嫌な風が体中にまとわりつき、さっきまでいた地獄のような塾が名残惜しく感じられる。クラスメイトと駅に向かう途中に海人の姿を見つけた。 「なあ、あれお前の幼馴染じゃないか?」 「ああ海人だな」 僕はそっけなく答えた。 「おい、あいつ泣いてる女を追いかけているぞ。こっちは塾に行って勉強しているのに。いいよなー馬鹿には関係なくて」 幼馴染の俺に同意を求めて海人の悪口を言うつもりなのだろうか。 「はぁ、そんなこというなよ!」 海人のこととなり柄にもなく声を荒げてしまった。 「どうしたんだよ。新井」 僕が怒りを見せるとは思ってもなく少し慌てた様子だった。 「いや、ごめん。受験とか関係ないだろ、人のいないとこで言うのがちょっと嫌なんだよ」 僕は相手の悪口を抑制しつつ海人を守ることのできる返しをしたと思う。 「こっちも新井の前で言い過ぎたかも。でもまあ、あいつのことなんか気にせず頑張ろうぜ」 「…あぁ」最後の言葉は余計だと思うが納得してくれてよかった思う。 海人が女の子を泣かせているところは初めて見たが、女の子の扱いは慣れている海人のことだから大丈夫だと思い僕は勉強に身を入れた。

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