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act.7 Angelic Kiss 〜 the 2nd day 14
けれど、きちんとしたところって、一体どこなんだ。
行き着くところは児童相談所しかないわけだが、はたしてそこでミチルは自分の受けてきた性的な虐待をきちんと訴えることができるだろうか。
あの引っ込み思案な性格から考えると、難しいかもしれない。父親は当然事実を否定するはずだ。ミチルは一時保護所に入ることになるかもしれないが、遅かれ早かれ家に引き戻される可能性は否めない。
駄目だ。絶対に、ミチルをあの父親のもとに帰してはいけないんだ。
そこまで考えて、行き詰まってしまう。
あの後、ひとしきり泣いたミチルが落ち着いてから、俺たちは三人で順番に風呂に入って寝る支度をした。ミチルを一人にするのは気が引けたけど、今日もリビングのソファベッドで寝かせてほしいと本人が希望したから、結局昨日と同じような形になっている。
ミチルが寝つくまでの間、ハルカはずっと傍らで手を握りしめていて、その甲斐甲斐しさはまるで熱にうなされた小さな子を心配する母親のようだった。
やっとのことでハルカと二人して温かな布団に入ったものの、ミチルをどうすればいいかを考えるとどうにも思考が煮詰まってしまう。
「ミチルには行きたいところがあるんだと思う。そこへ行こうとして家を出て来たんだ」
不意にそんなことを口にしたハルカは、何かを訴えるように澄んだ瞳を煌めかせながら俺を見つめる。
「昨日の夜、ミチルの服を洗濯しようとしたら、ズボンのポケットに折り畳まれたメモ用紙が入ってるのを見つけたんだ。そこに住所が書かれてた。ミチルはきっと、家を出てそこへ行こうとしてたんだ。その紙はこっそりミチルの荷物の中に入れておいたけど、書いてあった住所は憶えてるよ」
ハルカが告げた地名は、近隣の県のものだった。車なら高速を利用してここから一時間ほどあれば着くだろう。
行く宛てがあるにもかかわらず、ミチルがここへ留まっているのは、そこへ行くことを躊躇っているからかもしれない。
思い余って家を飛び出して来たものの、行っていいものかどうかを迷っている。だから、俺たちにもそれを言い出せずにいるんだろう。
さっきのミチルの痛々しい表情を思い出して、また胸が痛くなる。
実子に対する強姦事件は、数年前に取り扱ったことがあった。ミチルの姿がどうしてもその子と重なってしまう。
被害者は中学二年生の女の子だった。父親は実の娘と三年もの間、当たり前のようにセックスを繰り返していて、しかも母親はそれに気づいていた。気づいていながら、何も知らないふりをした。現実を受け入れることができなかったんだ。
娘は娘で、誰かに助けを求めることを考えなかった。絶対に隠し通さなければいけないと思ったからだ。自分のせいで家族が崩壊することが何よりも怖かったと、後になって供述している。
思い悩んだ娘は自殺未遂を起こして、幸い一命を取りとめた。搬送先の病院からの通報で警察が認知し、全ては発覚した。
けれど娘の精神状態はボロボロだった。彼女の心をケアしながら事件に向き合えるまで立ち直らせて、否認する父親を起訴に持ち込むまで、相当の時間を要した。
普通に日常生活を送る人にはまるで信じられないことが、この世界には五万と転がっている。見えないからと言って、何も起こっていないわけじゃない。ただ、知らないだけなんだ。
法的にミチルを父親から守る方法はある。けれど、そのカードを切ることができるかどうかはミチル次第だ。こんなところで俺一人が頭を悩ませたところで、何ひとつ解決しない。
「……明日、ミチルの様子を見ながら考えるか。とりあえず、そのメモの住所まで行ってみよう」
溜息と共に言葉を吐き出せば、ハルカは小さく笑った。
「タクマさんは優しいね」
「そんなことないよ」
優しいもんか。俺はどうしようもない、無力な人間だ。
苦笑しながら否定すると、ハルカは上目遣いで俺を見ながら可憐な桜色の唇を開く。
「僕、タクマさんが好きだよ。すごくあったかい人だってわかるし、傍にいると安心する」
「だったら、四日間なんて言わずにずっとここにいればいいよ、ハルカ」
このかわいい人を、俺の傍に置いておきたい。そもそも俺にはハルカを手離す気なんて最初からさらさらないんだ。
思わず口にした本音に、淋しげな瞳がゆらりとくゆる。
ああ、そんな顔をされてしまったら、これ以上何も言えなくなるじゃないか。
「……タクマさん」
ハルカは甘えたように俺の名を呼んで、そっと唇を寄せてくる。二人の間で柔らかな吐息が混じり合い、重なる。導火線につけられる、小さな火種のようなキス。
触れるだけの口づけを交わすはずだったのに唇を割り開いてそっと舌を挿し込まれれば、胸の内に燻っていたものが一気に燃え上がる。
その舌を引き寄せるように吸って絡め取りながら唾液を交換しているうちに、身体の中心にどんどん熱が溜まって渦を巻き始める。
いつの間にか立ち込めている匂いは、必死に抑えつけようとしていた性欲を強烈に駆り立てていく。
しなやかに絡みついてくる身体から放たれる熟れた甘い香りに酔いながら何度も唇を重ね直していくうちに、硬く張り詰めたハルカのものが腹の辺りをくすぐるように主張していることに気づいて、思わず笑ってしまった。
「ハルカの身体は正直だね」
「タクマさんもね」
そう囁きながら、ハルカは手を伸ばして俺の昂ぶりを布越しに撫でまわした。
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