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the last act. Plastic Kiss side A 〜 the 1st day 8※

くたりと身体の力が抜けていく。乱れた呼吸を少しでも整えたくて、僕は深く息を吐こうとした。 『……は、っあ……』 宥めるように頬へと唇が押しあてられる。沙生が与えてくれるキスはいつも優しくて、けれどそこにはチリチリと燻る熱が篭っている。 ぬるま湯のような温度は、触れ合ううちに二人にしか辿り着けないところまで高まっていく。 身体を起こした沙生は僕の吐き出した白濁を丁寧に拭い、掌の上にローションを転がした。人肌に温めるこの行為の時間はいつもどこか気恥ずかしくて居た堪れない。 『飛鳥、かわいいね』 ふと声を掛けられて視線を上げれば沙生が僕を優しい眼差しで見下ろしていた。 こんなに暗い部屋の中でも、鳶色の瞳はいつもわずかな光さえ集めて美しく煌めく。まるで繊細なカットを施された宝石のようだと思う。 どこまで地底を探っても見つけることができない、沙生の生命を灯す貴重な輝きだ。 『また子ども扱い?』 照れ隠しでそう返せば、沙生は目を細めて口角を上げる。 『飛鳥、俺は子どもにこんなことはしないよ』 いつもは知的で穏やかなのに、こういうときの沙生はひどく艶やかだ。いつもは隙のない硬質な雰囲気がほんの少し緩んで、そこからうっとりするような色気が漂い、僕の理性を掻き乱していく。 そうだ、侑の普段の空気に近い。 兄弟でも外見はそれほど似ているわけではないのに、なぜかこんなときは二人の印象が重なる。 面と向かって口にすることはないけれど、沙生と身体を重ねているときは、どういうわけか沙生と侑の繋がりを感じることがある。それは、もしかすると僕にしかわからない感覚なのかもしれない。 朦朧としてくる意識の中で、脚を割り開かれて後孔をゆるりと指先で擽られる。円を描くように何度か撫でられて、もどかしさに腰が揺れてしまう。 『……あ、沙生……』 『挿れるよ』 指先がつぷりと中に入ってくる感触に息を吐きながら堪える。それを異物だと認識するのはこの一瞬だけで、僕の身体は沙生の指を取り込もうとするかのように貪欲に蠢きだす。 奥まで挿れられたものが、探るようにゆっくりと抽送を繰り返していく。そこから波のように生まれる快楽を僕は全身で享受していた。 『──あっ』 中の敏感な部分をひと撫でされて、身体が大きく跳ね上がる。汗ばんだ僕の額に宥めるようなキスを落としながら、沙生はそっと囁いた。 『飛鳥のここ、融けてきてる』 わざと大きく掻き回されたそこはくちゅりと細やかな水音を立てて鳴る。ぞわぞわと痺れのように身体を廻る快感に震えながら、僕はその背中に両腕を回した。 『沙生、もっと……』 中に入る指が増やされる感触がして、圧迫感が強まる。少しずつ満たされているはずなのに、この身体は貪欲に更なる快楽を渇望していた。 やがてぐずぐすと緩んでいく意識はぼんやりとくすみだして、僕の理性は容易く浚われていく。 『あぁ……、っん、あ……ッ』 『ん、気持ちいいね』 同調するようにそう言われて、僕はだらしなく首を振り頷く。 暗がりの中にいるのに、世界が白い。まるで夢の中のようにこの景色は淡く滲んでいた。 地平線近くに立ち昇る蜃気楼のようだ。 気がつけば絶頂がすぐそこまで近づいていて、僕は慌てて沙生にそれを訴える。 『あ、沙生ので、イきた……ッ』 必死にしがみついたせいで浮いた僕の背中に掌をあてて沙生はそっと抱きしめてくれる。腰にあたる沙生の感触が恋しくて、僕はそこに手を伸ばした。指を絡ませて愛おしい昂ぶりを握り込めば、そっと息をつく気配がした。 『……沙生、欲しい』 快楽に揺らぐ腰を押しつけながらそう訴えれば、沙生はまた宥めるように優しいキスをくれた。 渇望するままに欲しいだけ与えられても、触れ合えば触れ合うほど飢餓感が募るのはなぜなのだろう。 遥か昔、僕と沙生はもともとひとつだったのかもしれないとさえ思う。今は別個の肉体だから、セックスという手段でしか元には戻れない。だから僕は、沙生とこうして繋がろうとしている。 『……あぁ』 小さな水音を立てて、ずるりと指が引き抜かれる。失った感覚が心許なくて声をあげれば、身体を起こした沙生が僕の中へと入ろうとしているのが見えた。 ぬるりと先端をあてがわれて、その熱さに身を捩る。 『飛鳥が一番欲しいのは、何?』 焦らすようにそう尋ねられて、僕は喘ぎながら懇願する。 『沙生が、欲しい。全部……』 沙生の身体も、魂も。僕だけが永遠に手にすることができればいい。 そうすれば僕は、得体の知れない不安に苛まれることなく生きていけるだろうか。 『もう、全部飛鳥のものだよ』 快感に呑まれながらも僕は頷き、微笑んでみせる。その言葉がこの場限りのものだとしても今は構わなかった。 『ん、あぁ……あッ』 ゆっくりと入ってくる質量に息を吐きながら、僕は目を閉じて沙生を受け容れていく。 今、こうして沙生を感じることができればそれでいい。 奥まで到達した途端、甘い痺れが身体の芯を震わせる。何度もみっともなく声をあげて、気がつけば沙生が僕の顔を見下ろしているのがわかった。 『ほら、飛鳥』 沙生は小さく笑って、僕の胸の辺りをそっとさする。ぬるりとした感覚に、いつの間にか自分が果てていたことに気づいた。 『あ……ごめんなさ……』 沙生と繋がった部分がじんじんと痺れている。そのもどかしさに腰を捩れば沙生が息をつく気配がした。

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