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act.1 Honey Kiss 〜 epilogue

「よう。イケメン。元気ないじゃん。もう死期が近いのかもな」 同僚の高城が、開口一番にそう言う。 「……ペットが家出したんだよ」 かわいそうな子を見る目はやめてくれ。 「お前どうせ早死にするんだから、とりあえず楽しく生きろよ」 高城が俺を適当に慰める。 「そうだな。すぐ立ち直るから、また合コンのセッティングよろしく」 俺の言葉に高城がニヤリと笑う。 「了解。それまで生きてろよ」 アスカはあれ以来、俺の前から姿を消していた。 追加料金の請求も来ない。アスカの言い方を借りれば、あのセックスは料金に含まれていたのだろう。 俺はアスカを抱いてから、憑き物が落ちたように美希への未練を失くしていた。大切にしていた美希との思い出を、アスカで二度塗りしたからかもしれない。 アスカとの契約がなぜ4日間だけなのか。俺にはなんとなくわかる気がした。 あれ以上一緒にいれば、俺はアスカを本気で愛してしまっていただろう。アスカを手離すことができる限界の期間。それが4日間なのかもしれなかった。 PLASTIC HEAVENに行けば、マスターはいつも通りイケすかないぐらいクールに振る舞う。俺にアスカを紹介したことなど忘れてしまったかのように。 俺はアスカのことを何も訊かない。マスターも勿論何も言わない。 アスカと過ごした4日間は、幻だったのかもしれない。 そんな折、携帯に非通知で電話が入った。 『……ハルくん』 誰かと思えば、美希だった。 『そろそろ、連絡しても大丈夫かなと思って……』 今更何だよ、とは言えなかった。俺はやっぱり美希のことが気になっていた。 『ハルくん、ごめんなさい。私、ハルくんのことが大好きだったよ。でも、ハルくんは私が一緒にいても淋しかったでしょう。それじゃダメだって、ずっと思ってた。ハルくんの運命の人は私じゃない。一緒にいたらダメだって、気づいてた。でも、説明しても多分ハルくんはわかってくれないと思った。だからあんな形で……』 美希の言うことは、今ならなんとなくわかる気がした。 「悪かったよ。美希、今までありがとう」 いっぱい我慢させたし、悲しい思いをさせた。 俺には美希がいないと駄目だと思ってた。でも、多分それは違った。結局のところ、俺は美希でも駄目だったんだ。 『あの神社で会ったきれいな男の子。ハルくんのこと、好きなんだね』 美希が急にアスカのことに触れる。そうだ、美希もアスカに会ってたんだ。 アスカはやっぱり存在したんだなと、俺は妙に安心する。 「ああ、あれは違うんだ」 『私にはわかるよ。あの子、ハルくんのことが大好きな目をしてたもん』 本当に違うんだけどな。ま、いいか。 『私、遠くから祈ってるよ。ハルくんが、一人で立つことができますように。いつかハルくんに、本当に大切な人が現われますように。ハルくんに、幸せになってほしいから』 美希の祈りは、神様には届かないかもしれない。でも、俺にはちゃんと届いてる。 「おう、任せとけよ」 『心配だよ』 安請け合いすれば、美希の笑い声がした。 そして俺は、アスカの甘い匂いを想い出しながら神様に祈る。 きれいで、魅惑的で、誰よりも淋しがりやのアスカ。 いつか、アスカが淋しがらずにいられる日が来るように。

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