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act.3 Binding Kiss 〜 the 3rd day 2 ※

「水、飲みたい」 アスカが喉の渇きを訴える。つまらない身の上話をしているうちに、日は傾いていた。 俺たちは昨日の昼から何も食べていなかった。酔いもかなり醒めてきている。 二人で階下へ行き、冷蔵庫のミネラルウォーターを飲んだ。 「何か食うか」 俺の言葉にアスカは軽くかぶりを振る。 「リュウジさんは?」 「俺はいいよ」 「僕もいらない。お腹が空かないんだ」 それはずっと食べていないから感覚が麻痺しているだけなんだが、アスカはそう言ってまた水を飲んだ。 突如、リビングの電話が鳴った。出るつもりのない俺をアスカが見上げる。幾度かの呼出音の後、留守電に切り替わった。 『琉司さん』 スピーカーから聴こえてきたのは、翔子の母親の声だ。 『翔子と航ちゃんの一周忌のこと、何か決まりましたか? 一度連絡を下さい』 声はそこでふつりと途切れる。 「亡くなって、一年が経つんだね」 「ああ、納骨もまだだ」 そう頷きながら、俺はアスカを連れて寝室へと戻っていく。 「リュウジさん。どうして、僕を呼んだの」 「さあな」 ベッドに横たわりながら俺を見つめるアスカのさらさらとした髪に指を絡ませ、ゆっくりと梳いていく。 「お前に会った奴は、たったの4日間で救われたと言ってる。俺もお前に救われたかったのかもな」 「僕は何もしてないよ。ただ4日間、契約してくれた人と一緒にいるだけだ」 水槽のエアポンプが奏でる音が部屋に響いていた。こちらに向けられたアスカの眼差しが、真っ直ぐに俺の心を捕らえる。 「ねえ、リュウジさん。死のうと思ってるでしょ」 「……ああ、そうだ」 手錠で繋がった手を握りしめて答えれば、アスカは虚ろに目を細めた。 独りでこの世界に取り残されてからの一年間、俺は翔子と航太に逢うことばかりを考えてきた。地獄を這うような日々を送りながら、待っていたんだ。二人の命日を。 「俺は、明日死ぬんだ」 その告白に微塵も動じることなく、アスカは俺を抱きしめる。甘い匂いは聖母のような優しさで俺を包み込む。 「僕たちが出逢ったのは、きっと運命だ。一緒に死んであげる」 いい加減なことを言うな。言いかけた言葉は唇で塞がれる。 アスカが俺の口腔に舌を挿し込んでくる。生命を注ぎ込むようにゆっくりと侵入する舌を、俺は絡め取り吸っていった。 「リュウジさん……」 唇を離しながら吐息と共に名を呼んで、アスカはその美しい瞳に俺を映し出す。 「大好きだ」 俺の首筋に舌を這わて、そのまま下肢まで身体を辿っていく。屹立した俺のものを舌で舐めてから、奥深くまで咥え込んだ。 熱い口腔に包まれて、俺は容易く快楽の海へと沈められていく。 「アスカ……来いよ」 そう誘えば上目遣いで俺を見て、名残惜しそうに口の中のものを吐き出す。 ベッドの上に無造作に転がるローションを手に取って、アスカは俺の半身へと塗り込んでいく。ひんやりとした感触が気持ちいい。 俺の上に跨がったアスカは、張り詰めた先端を自らの後孔にあてがい、ゆっくりと腰を落としていった。 「ん……あ、あぁ……」 桜色の唇から甘い喘ぎ声がこぼれ落ちる。アスカの中は熱くうねりながら俺を咥え込み、受け容れる。気を許せば息の根が止まるほど深い快楽へと浚われてしまいそうだった。 「ほら、自分で動けよ」 アスカは恥ずかしげに頷き、ゆるゆると腰を動かしていく。 「あ、あ……ッ、ふ……あァ……ッ」 ベッドのスプリングが派手に軋む。どうすれば気持ちよくなれるかは自分でよくわかっているんだろう。巧みな律動で俺を刺激しながら、アスカは自らを追い立てていく。 「リュウ…ジ、さ……ッ、ん……あぁ、ああ……ッ」 背中を仰け反らせながら淫らな声をあげる。俺を見るその瞳には、溢れんばかりの情欲が滲んでいた。外に出ることもなく、何も食べずに過ごしているうちに、感覚が鋭敏になっているのかもしれない。俺自身もまた、そうだからだ。 「リュ……ジ、さん……好き……ッ」 俺の上で美しく身体をしならせながら、アスカは手錠で繋がった俺の手を硬く握りしめる。 「あぁッ! ふ、あ…あァ……ッ」 細い腰を片手でしっかりと掴んで揺さぶるように突き上げていくと、悲鳴のような声があがった。中がビクビクと締めつけてくる。 弱いところを抉るように突いていけば、アスカが喘ぐ度に手錠の鎖が音を立てる。 手首と、下肢。アスカと俺は二つの部分で繋がっている。だがもうひとつ、繋がりたいところがあった。 一旦動きを止めれば、アスカは快楽を取り上げられたのが辛いのか虚ろな瞳で俺を見下ろす。 浅く短い呼吸音が、エアポンプの音と混じり合う。 「お前が好きだ」 快楽の波に揺蕩(たゆた)う凪ぎの狭間で、俺はアスカの心を繋ぎ留めようとしていた。 揺れる双眸から煌めく雫がこぼれ落ちる。穢れのない美しい涙だ。 その身体に多くの男を受け容れながら、アスカはこんなにも清らかな涙を流す。 「リュウジさん……」 そっと抱き寄せると、腕の中でアスカは喘ぐように言った。 「ずっと、一緒だよ……」 細い左腕で俺に縋りつき、繋がった手を固く握りしめる。この海の底で、決して離れないように。 止めていた動きをゆっくりと再開すれば、アスカの中は波のようにさざめいて俺を締めつけた。 「んっ、あ……、ああ……ッ」 やがて大きな快楽がアスカを浚って、俺は激しく収縮する熱に引き摺られながら呆気なく果てた。

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