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act.4 Lost-time Kiss 〜 the 4th day 4

「ミツキと会えてすごく嬉しかったし、本当に楽しかった」 するりと俺の腕から抜け出たアスカは身を起こし、軽く後処理をして服を着始めた。 「……どうして」 アスカが俺のもとから去っていく。一緒に過ごしながら胸の奥で懸念していたことが、現実になろうとしていた。 「最初から4日間っていう契約だったから」 シャツのボタンを掛ける手の動きを止めずに、アスカは淡々とした答えを返す。まるで精巧な人形のように表情がなくて、感情が読み取れない。 「アスカ。俺じゃ駄目なのか」 「……そんなんじゃ、ないよ」 「じゃあ何だよ。俺とはもうこれっきりで、また他の男に抱かれるのかよ!」 強い口調で問い質せば、アスカは目を逸らして口を噤んだ。沈黙は肯定なのだろう。思わず腕を掴むと、怯えたように身体を強張らせる。 「ずっと探してた。やっと見つけたんだ。想いが通じたと思ったのは俺だけで、こんな形でまたお前を失ってしまうなんて……俺には堪えられない」 やっとの想いでそう口にすれば、アスカは俺から目を逸らした。 「ミツキ、ごめん。離して……お願いだから」 その声は小刻みに震えていた。アスカの瞳が今にも泣き出しそうに揺れるから、俺はその手を離してしまう。 「俺のこと、どう思ってるんだよ。俺、アスカの気持ちを一度も聞いてない」 俯いたまま、アスカは悲痛な面持ちでただ唇を噛みしめる。 掛時計を見れば、その針は午前0時を指そうとしていた。アスカとの時間がもう終わりを告げる。 「5分でいいから」 どれだけ求めてもアスカはこうして簡単に離れていく。心が通い合った気がしたのは俺だけだったんだろうか。それを、せめて確かめたいと思った。 「本当のアスカを、俺に見せて」 その言葉に顔を上げて、アスカは俺と目を合わせる。交わる視線の先にあるのは、全てを諦めた哀しい眼差しだ。 時間が止まったかのような沈黙の合間に、時を刻む秒針の音が流れる。 アスカはおもむろに歩き出し、掛時計に手を伸ばした。 「12」を指そうとしている剥き出しになった長い針に指を掛けて、「11」まで巻き戻す。 「光希」 振り返ったその顔は、涙で濡れていた。 「大好きだ」 胸に飛び込んでくるその身体を、俺はしっかりと抱きとめる。しがみついて泣きじゃくる姿は、小さな子どものようだ。 「大好き……」 今すぐにでも問い質したい気持ちを堪えながら何度も背中を撫で下ろすと、アスカはしゃくり上げながら言葉を紡いでいく。 「光希と一緒にいたかった。ずっとこうしていられたらって、何度もそう思った」 「だったら、どうして……」 溢れそうな感情を懸命に抑えてそう問いかければ、痛々しい懺悔の言葉が聞こえてくる。 「僕は沙生を忘れられない。沙生の生命を奪った僕は幸せになっちゃいけないんだ」 「俺が全部受け止めるよ」 「違う、そうじゃなくて」 涙ながらに訴える姿が愛おしくて、小さく震える身体をその心ごと抱きしめる。 「僕が無理なんだ。今の僕は、光希と一緒にはいられない」 見上げるその目から、大粒の涙が次々にこぼれていく。 「ずっと、待ってるよ」 あまりにもいたいけなその姿に、俺はそう言うしかない。 「駄目だよ。ねえ、光希」 キラキラと光を湛えた瞳が俺を一心に見つめている。帰る場所を作ってあげたかった。お前にとってそれが一筋の希望になるなら。 「待たないで……約束なんて、できない」 「約束はいらない。お前が帰って来るのは俺のところだ」 確信はない。それでも、口にしたことが真実になるようにと俺は強く願う。 次がいつになるかなんてわからないから、必死に甘い匂いのする身体を抱きしめる。柔らかな唇は涙の味がした。 「愛してるよ、飛鳥」 午前0時5分。 俺の腕を擦り抜けて、ロスタイムを終えたアスカは闇の向こうへと消えていく。

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