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act.0 Sanctuary Kiss side A 〜 the 1st day 2 ※
どれぐらいの間、そうしていただろうか。
「ユウ……僕、そろそろ行くね。ありがとう」
僕を抱きしめていた腕の力が緩んで、密着していた身体が離れる。
この先のあてはない。どうしたら、確実に死ねるのだろう。何の知識もないけれど、それをユウに訊くわけにいかないことぐらいはわかっていた。
「大丈夫か」
「うん、大丈夫」
優しい声が胸に沁みて痛い。これでもう、ユウとはお別れだ。僕は椅子から立ち上がる。
ぐらりと、世界が動いた。
急な眩暈に思わずカウンターに寄りかかる。
「……は……っ」
動悸が激しい。ずっと座っていたのに、急に動こうとしたからだ。
でも、そういえば──さっきから、身体が熱い。
喘ぐように呼吸しながら、僕はその場にしゃがみ込む。体内を廻る熱のもどかしさに堪え切れず目が潤み出していた。
「ユウ、身体が……」
傍に立つユウを見上げれば、美しい笑みを艶やかに浮かべて僕を見ていた。カウンターに置かれた飲みかけのグラスが視界に入る。
何か、入っていたんだ。
「効いてきたな」
ユウが屈み込んで僕の頬に触れる。さっきまでは何ともなかったのに、触れられた部分からビリビリと電流が走るような感覚がした。
「あ、ぁ……っ」
「この手の薬は、酒に弱い体質の方が効きやすい」
喘ぎ混じりの吐息が漏れる。そのまま身体を抱き上げられると、認めたくない感覚が絶え間なく湧き起こっては身体を這っていく。
「は……っ、あ……」
下肢が熱をこもらせていることに、もう気づかない振りはできなかった。押し退けようとしても、腕に力が入らない。
「ユウ、ど……して……」
耳元に唇が押しあてられれば、そんなことにさえ感じて身体の芯が震える。
──それは。
「楽にしてやるよ、アスカ」
悪魔のような囁きだった。
抱えられながら廊下に出て、開けられたウォールナットの扉の中に入ればそこには大きなベッドが置かれていた。
まだ朝なのに遮光カーテンが全部閉まっていて薄暗い。
そのままベッドに押し倒されて、僕の身体を組み敷くようにユウが覆い被さる。
「ユウ、冗談だよね……」
身体が熱くて、息苦しい。ユウは何も言わずに、鼻先が触れ合う距離で僕を見下ろしている。沈黙が、ただ怖かった。
「ねえ、何か……」
言って。そう続けるつもりが、服の裾から手を差し込まれて、素肌に触れるその温度の低さに過剰に反応してしまう。
「ひゃ……あ、ぁっ」
脇腹をそっと撫でられて、ぞわぞわとあの感覚が肌を伝う。まるで下半身が心臓になったみたいにドクドクと脈打っていた。
「よく効いてるようだな」
状況が理解できない。ただ、どうしようもなく身体が疼いて堪らない。
ユウの手が僕の股間に掛かった。布越しに触れられて、ビクビクと身体が震える。
「や……っ、あッ」
「もう、限界か」
ユウはそう言って至近距離で僕を見つめる。張り詰めたものが今にも達しそうになっていた。
「いや、だ……」
必死に押し退けようとその腕に手を掛けると、ユウは少し笑った。
「それで我慢できるのか」
僕は呆然とユウを見つめる。これは悪い夢だ。だって、ユウがこんなことをするはずがない。
「自分でする、から……」
羞恥に堪えながらそう言えば、突然ユウが僕から手を離して身体を起こした。
「じゃあ、見ててやるよ」
信じられない言葉に、僕は目を見開く。ユウの瞳からは、何の感情も読み取れない。
これは何の悪夢だろう。どうして、僕にこんなことを。必死に考えて、僕は答えに辿り着く。
──憎んでいるのだろうか。サキの生命を奪った、僕を。
ユウは何も言わずに、海の底のように深く冷えた眼差しで僕を射抜くように見る。
これが、僕に与えられるささやかな罰なのだとすれば、僕は甘受しなければならない。
上体を起こして、ズボンのベルトに手を掛ける。手が震えて、なかなかうまく外せない。無意識に身体の熱を逃がそうとするのか、呼吸が速くて苦しい。
ようやくベルトが外れて、ズボンを少しずらせば下着がひんやりと濡れていることに気づく。はしたなく漏れ出た先走りのせいだった。
「全部脱げよ」
抑揚のない声に、僕は頷くしかない。もつれる手で身に纏うもの全てを脱いだ頃には、妙な薬はもう完全に身体に廻り切っていた。
「苦しいか」
喘ぎながら頷く。これは僕の受けるべき罰。だから、見られながら快楽に溺れても仕方がない。
強引に自分を納得させて、冷めた視線を感じながら震える手で昂ぶるものを握り込む。
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