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act.0 Sanctuary Kiss side A 〜 the 3rd day 5 ※

思い切ってそう告げれば、心臓が大きな音を立てて鳴った。怖くて少しずつ減っていた行為を、僕は沙生にねだっている。 『沙生の負担にならないようにするから』 沙生が何かを言いたげに口を開こうとするのを言葉で遮る。 この頃、沙生は身体を動かすのにどこか不自然な素振りを見せる。左腕以外の部分にも症状が出始めているに違いない。 僕たちはあと何度身体を重ねられるのだろう。考えたくないけれど、もしかしたら。 『沙生を感じたい……』 これがもう、最後になるかもしれない。 顔を近づけて吐息を閉じ込めるように唇を重ねる。唇を割って舌を挿し入れると、丁寧に絡められる舌の動きに昂ぶりを覚えた。 何度も口の中を弄り合って唇を離し、目を開けば沙生が恍惚とした顔で僕を見ていた。合間にキスをしながら沙生の服を脱がせてあげて、僕も全部脱いでしまう。 ベッドの上で膝立ちで抱き合って、また口づける。身体にあたる肋骨の感触は、以前よりも硬さが増していた。 沙生、もっと食べないと駄目だよ。 その言葉を飲み込んで、代わりに抱きしめる腕に力を込める。 沙生の苦しみが全部僕に移れば、どんなにいいだろう。 僕は沙生を仰向けに寝かせて、その上に跨がった。沙生はまた少し痩せたのだろう。それでも、この世界で一番美しい身体だった。 『沙生、じっとしてて』 屈み込んでゆっくりとキスをする。形のいい唇を啄んでから舌を挿れて絡ませれば、それだけですごく気持ちいい。 触れ合う部分が、緩々と解けながら蕩けていく。 名残惜しく離した唇を、沙生の頬に押しあてる。そのまま横に滑らせて、柔らかな耳朶を食んでから首筋に舌を這わせた。沙生の全てを味わいながら、少しずつ身体を降りていく。 唇で肩先から左腕を辿れば、組み敷く身体がヒクリと動いた。 もう、殆ど動かせなくなってしまった沙生の左腕。 感覚はまだあると、この間は言っていた。僕は手に取った左手の指を一本ずつ口に含んでいく。慈しみながら丁寧に舐めていくうちに、沙生の吐息が聞こえてくる。 ちゃんと感じてくれているのは、感覚が残っている証拠だ。それが本当に嬉しくて、心から安堵する。 全部の指が終われば、そっと沙生の左手を離した。小さく上下する胸にキスをして、そこから再び身体を降りていく。ようやく辿り着いた沙生の中心は、既に反応していた。 そそり勃つ沙生のものをギュッと握り込んで、喉奥までゆっくりと咥え込む。さっきしたキスのように、舌を絡めて吸いつくように扱いていけば、口の中のものは一段と大きくなった。 根元を握りしめて上下させながら、口を使って愛撫するうちに、沙生の呼吸が乱れていく。 ふと顔を上げれば濡れた鳶色の瞳が僕を見つめていた。 『飛鳥……』 吐息混じりに名前を呼ばれて僕の身体は熱くなる。 舌を窄めて先端から溢れ出てくる甘い先走りを吸い取り、喉奥の限界まで口に含んで扱きながら先の括れを舌でなぞる。そんな動きを繰り返すうちに、沙生の手が僕の頭を優しく撫で始める。その些細な感触にさえ、感じてしまう。 沙生から聴こえる呼吸の音が、心から愛おしい。 『ん、……ッ』 何度も髪を撫でる掌が気持ちよくて思わず声を漏らした瞬間、沙生が小さく呻いて口の中に熱い精が飛び込んできた。 断続的に放たれるものを残らず受け止める。震えが止まったことを舌先で確認してから、生命の滾りを飲み下した。その瞬間、なぜか初めて沙生と結ばれたときのことを思い出す。 あれは、二年前だ。 身体を重ねれば沙生とひとつになれる気がした、あのとき。僕は未来に何の不安も抱かなかった。 『ねえ、沙生』 沙生の額にうっすらと浮かぶ汗を舐めとるようにキスする。 『もう一回……大丈夫?』 僕の言葉に沙生が頷く。その瞳は少しぼんやりとしていた。 僕はサイドボードからチューブを取り出して、中の透明な粘液を指に塗っていく。ベッドの上に座ったまま恐る恐る脚を開いて指を後孔にあてれば、ひんやりとした感触に背筋がぞくりと震えた。 『飛鳥……』 『沙生、いいから』 伸ばされた右腕をそっと押しのけて、ゆっくりと息を吐きながら指を中に沈める。そのまま、沙生が入りやすいように少しずつ解していく。 『……っ、は……ぁ』 いつもは、自分ですることはない。一人では気持ちよくなれないことがわかっているから。なのに今は、沙生に見られていることが僕を昂ぶらせていく。 目を閉じて沙生の指の感触を思い出しながら動かしているうちに、いつの間にか僕は一人では辿り着けないところへと到達しようとしていた。 『あ……沙生、沙生……っ』

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