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Stigmatic Kiss side A 4 ※

ねだるまでもなく、優しい愛撫は始まっていた。一瞬だけ重なり啄ばまれた唇が僕の頬をするりと滑り落ちていく。耳朶を食まれながら舐められてくすぐったい気持ちよさに少し身を捩れば、耳元で低く囁く吐息を感じた。 「……アスカ」 奏でられる響きの心地よさに、僕はうっとりと酔い痴れる。その艶やかな低音で名前を呼ばれることが、僕は好きだった。 「ユウ、いっぱいにして」 吐息混じりに訴えれば、大きな掌で頬を労わるように撫でられ、人差し指が唇をなぞりだす。僕は本能のままに口を開けて舌を伸ばし、その指先をそっと舐めていく。 熱っぽい眼差しで僕を見つめるユウに視線を預けたまま、その長く美しい指を第一関節まで含み、節くれだった感触を味わうように軽く吸っては唾液を絡めて転がす。 しばらくそんなことを続けておもむろに引き抜かれた指から、細い糸がだらりと滴り落ちた。 その手は僕の生を確かめるように首を撫で下ろし、鎖骨を這ってやがては胸の頂きに辿り着く。そこを濡れた指で転がされれば、身体は素直に反応してしまう。 優し過ぎるほどに繊細な手つきだった。けれど触れられる度に僕の身体には軽い眩暈のような快感が湧き起こり、背筋が小さくわななく。 唇を重ねるだけのキスを交わして、ユウの頭は僕の身体を降りていった。 「──っ、あ、あ……」 指先で触れられている方とは反対側の胸の頂きを唇で優しく啄ばまれ、与えられる刺激に震えて思わず喘ぎ声がこぼれる。舌先で何度も突つかれ、甘い蜜を吸うように口に含まれて、指先で捏ねられる。 折り重なる甘い痺れが波のようにうねりながら向かう先は僕の下肢そのもので、そこでは言いようのない快感が緩やかな渦を巻いていた。 昂ぶる感覚は、解放されるその時を待ち侘びながら(おり)のように溜まっていく。 「ん……は、ぁ……ッ」 息を吐きながらやり過ごそうとしても快楽は増幅する一方で、何度もシーツに頭を擦りつけて少しでもその熱を逃がそうとする。けれど、腹部を濡らすのがそそり勃つ自らのこぼした雫だと気づく頃には、もう僕は果てる寸前まで追い詰められていた。 「あ、ぁ……っ、ユウ……ッ」 そこへ辿り着くまで、あとほんの少し足りない。刺激を求めて胸元に舌を這わすユウの髪に指を絡めてうずめる。 その顔が上がり目が合った次の瞬間には、唇を奪われていた。 酸素を求めてだらりと開いた口の中に舌を挿し込まれる。絡め取られた舌を吸い上げられて蜜に濡れたものを緩く扱かれれば、身体の中を強い快感が駆けずり回っていく。 息苦しいことさえ気持ちよくて、行きどころのない衝動が堪え切れず下肢を突き破って迸った。 「──ッ、ん、ん、あぁッ……」 幾度か上下に動かされただけで、僕は呆気なく欲を吐き出してしまう。 宥めるように額に何度も落とされるキスの優しい感触は、僕を夢見心地にさせていく。うっとりとしながら、僕は広い背中に腕を回してまだ収まらない余韻に浸る。 起き上がったユウは、荒く息をつく僕を見下ろしたまま舌を伸ばし、掌に受け止めた白濁をそっと舐め取った。 目の前で当たり前のように繰り広げられるその光景を見る度に、いつも身体の震えを止めることができない。この行為に、僕の全てがユウの掌中にあることを否が応でも自覚させられる。 「ユウ……」 腕を伸ばして名を呼べばゆっくりと引き起こされる。与えられるのは、蕩けるように甘美な口づけ。 濃厚なそれは、いつものどこか無機質なキスとは違っていた。放たれた欲の残り香と共に流れ込むのは、芳しく熟れた熱だ。 包み隠されることなく注ぎ込まれる強い情動に、僕は容易く攫われて流される。 互いの唾液を混ぜ合わせるように何度も交わされる密約のようなキスは、僕の理性を根こそぎ奪い取り、溶かしていく。 火照りの収まらない身体を起こして、僕は間近でユウと視線を交わせる。鳶色の瞳が、ゆらりと(そそのか)すように光った。 ああ、そうだね。次は、僕が示す番だ。 その意図を読み取った僕は、息をついてからユウの両肩に手をあててそっと押し倒す。その肩先から食むようにキスを落として少しずつ降りていき、熱く猛るその根元をしっかりと握りしめて口に含んだ。 脈打つものが咥内で小さく蠢くのを感じながら片手で扱き、舌を使って吸い上げるように愛撫していく。 丁寧に施したいと思っていたはずが、僕はいつの間にかその行為に夢中になっていた。 濡れた音を鳴らしながら頭を上下に動かして、奥に含んでは先端まで舐め上げる。自分の中を渦巻く衝動をそのままぶつけるかのように、口の中をそれで満たすことにひたすら熱中していた。 さっき欲を吐き出した僕のものは、もう頭をもたげ始めている。 一刻も早く、満たされたい。 突き上げるその欲求に追い立てられながら、口淫を繰り返す。 「──アスカ……」 頭上から詰めた息を細く吐くように名を呼ばれて目線だけを上げれば、そこには僕を愛おしそうに見つめる美しい瞳があった。 視線を絡ませたまま、僕はゆっくりとこれまでの動きを繰り返す。 僕の頭にユウの手が触れる。指に髪を絡ませて、優しい手つきで何度も撫で上げられれば、身体の奥にまた小さな官能の焔が灯り、ゆらゆらと燻った。 瞼を閉じて神経を集中させ、喉奥まで含んでは舌を絡みつかせて舐め上げていく。 やがて小さな呻き声と共に、口の中に熱い欲が放たれた。 「……ん、ん……ッ」 頭を押さえつけられたまま、舌の上でそれを受け止めれば、ピリピリとした刺激が口の中に広がっていく。収縮するそれを舌先で宥めて、僕はユウの半身が落ち着くのを待った。

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