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Stigmatic Kiss side A 7 ※

「あぁ、あっ、ユウ……」 息も絶え絶えに名を呼びながら恐る恐るその顔を見れば、美しい瞳が真っ直ぐに僕を見つめていた。 何もかもを見透かすその眼差しに縋るように、僕は口を開く。 「ユウ、好きだ」 僕たちを取り巻く冷たい空気が、熱を含んでじわりと揺らいだ。 嘘ではない。ただこれがどういう類の好きかは、本当のところ僕自身わかっていなかった。 「ユウ、ユウ……好き……」 震える声で繰り返せば、ユウは慈愛に満ちた優しい視線を注いでくれる。 だから僕は、ずっと自らに禁じていた言葉をとうとう口にしてしまいそうになる。 「ユウ……」 愛してる。 言ってしまえば、気持ちは言葉に近づいて真実になる。この気持ちが愛なのだと、錯覚してしまえばいい。 そうすれば、僕は── 。 「……アスカ」 低く囁かれるその声には、僕を咎める強い意思が込められていた。 ユウはこの身体を抱きしめていた腕を解いて、人差し指で僕の唇に触れる。 ──軽々しく口にしてはいけない。 言葉もなく諭されて、出しそびれた声は快感を逃がすための吐息となり漏れていく。寸前で思い留まった僕は、目を伏せてぼんやりと考える。 ユウが僕に抱く感情を、口にしようとはしない理由。 それはもしかすると、想いが言葉に引き摺られることを恐れているからなのかもしれない。 ゆらゆらと小さく腰を揺らしながら快楽を貪る僕の目元に、ユウはそっと口づける。溢れる涙を舌で優しく掬い取られて、ただそれだけの刺激で淫らな身体は敏感に感じてしまい、また小さくわなないた。 流す涙はユウの中に入れば体内で混ざり合い、区別が付かなくなる。こうして僕たちは湧き出る情動の何もかもをない交ぜにして、ひとつになっていく。 僕の空虚を満たしてくれるのが、この人しかいないことはわかっていた。 誰に(そそのか)されたわけでもない。僕は自らの意志で選ぶのだ。 「ユウ……もっと、……あッ」 縋りつきながらそうねだった途端、身体が反転して僕は勢いよくベッドに押さえつけられる。 腰を両手で抱え込まれ、両脚を折り曲げるようにのし掛かられる。熱い身体の重みに軋むような痛みを感じて息を吐いたそのとき、ユウはひと思いに僕を貫いた。 「あ、んぅ……っ、あァッ」 内臓が押し潰されそうな息苦しさに喘ぐ。下肢が寸分の好きもなく密着する一体感に、これ以上ないぐらい満たされた気分を味わっていた。 肌が合わさるその熱を感じながら、最奥まで到達したのだとわかったその瞬間、僕は絶頂を迎える。 ふたつの身体に挟まれた僕のものは震えながら濁った精を放ち、何度も痙攣を繰り返した。 「──あっ、はぁ、ふ……ッ」 まだ全てを出し切らないうちに激しく突き上げられて、意識が途切れそうになる。 苦しくてうまく息ができないままに与えられる快楽はあまりにも強く、それでも身体は揺れる波に呼応するようにそれを受け容れていく。 「あ、ぁ……ッ、もっと……っ」 もっと、うだるほどの熱を。 全てを灼き尽くすほどの焔が欲しい。 この罪ごと業火に包まれて、消えてしまえばいい。 涙で濡れた僕の顔を煌めく瞳で見据えながら、僕を貫く人は優しいあの声で囁く。 『飛鳥』 ああ、まただ。 胸が痛くなるほど懐かしい響きに、僕は耳を疑う。そして、次の瞬間にはその声を求めて息を殺すのだ。 「サキ……」 『飛鳥、愛してるよ』 ねえ、サキ。 僕はもう、誰かを愛する気持ちなんて忘れてしまったんだ。 だからこれ以上失うものなんて何もないよ。 サキに赦されないことが、僕に与えられた罰なのだから。僕はずっとずっと、この枷に繋がれていなければならない。 ユウの中にいるサキを感じながら、僕はここで生きていく。 「──んッ、あっ、あ……ッ」 大きな波が僕を攫おうとしていた。 深く澱んだ海に沈み込んだ僕は、赦しを請うことさえ叶わない唇から、だらしのない声をあげる。 罪と共に抱かれて激しく穿たれ、二本の糸が縺れるように絡み合ったまま最果てへと流されていく。誰の手も届かないほど、遠くまで。 快楽に翻弄されるまま痙攣して跳ね上がる身体を押さえつけられ、仰け反る喉元にかぶりつくように唇をあてられた。 そこをきつく吸われた瞬間、灼けつくような痛みが浮遊していた僕の魂を急激に呼び覚ます。 突如鮮明になった意識の中で、僕は必死に今この身体を貫く人の名を思い出した。 「ユ、ウ……ッ、あ、あぁ……ッ!」 絶頂を迎えて震える身体を強く抱きしめながら、ユウが僕の名らしき言葉を低く唱えた。 「………」 その呼び方はいつもと違う気がした。 何だかとても懐かしい、そんな響きだ。 かつてユウはそうやって僕を呼んでいたのかもしれない。 けれど、これ以上無理なほど近くにいるのに、くぐもって聞こえるその音は僕の元へ届くことはない。 ねえ、ユウ。僕を何て呼んだの? けれどそれを問うてしまえば僕たちの世界は終わってしまうのではないだろうか。 ユウが僕の前からいなくなる。そんな予感がした。

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