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Stigmatic Kiss side A 6 ※

鎖骨から離れた唇は、するりと胸に滑り落ちた。途中で何度も痕を刻み込みながら、ユウは僕の身体を降りていく。 植えつけられているのは、熱だ。その証拠に僕の身体はどんどん昂ぶり、息が上がっている。 熱くて熱くて堪らない。この温度は、ユウの胸の内から湧き出てくるものだ。 言葉に表わされることはなくとも、ユウの抱く想いは僕に伝わっていた。 「あ……ユウ……ッ」 濡れた舌先が腰骨から下肢へ向かって這っていく。微弱な快楽にさえ堪え切れず揺れる腰を押さえつけられ、内股を強く吸われた。甘い痛みに僕は今にも果てそうなぐらい感じてしまっていた。 満たされている。確かにそう感じた。 「……あ、あッ」 けれど、その手が昂ぶる僕のものを握りしめ、唇がはしたなく蜜をこぼす先端にゆるりと触れた途端、唐突に鮮やかな記憶が蘇る。 目眩のように世界が反転し、僕を取り巻く時間が遡っていく。 思い浮かぶのは、針が剥き出しになった掛時計。 そうだ。あの時計の刻む時間は、僕がこの手で遅らせた。 『約束はいらない』 脳裏に響く懐かしいその声に、僕は反射的に身体を起こす。 五分だけ戻したあの時間は、確かに心が通ったと感じられた、幸せで哀しいひととき。 『お前が帰って来るのは、俺のところだ』 こんな僕のことをずっと捜して、見つけ出して、全身で受け止めようとしてくれた大切な人。 ああ。忘れたなんて嘘だ。 『愛してるよ、飛鳥』 「──ひ……ッ、やっ……」 淫らな声しかこぼすことのなかった唇から、無意識に悲鳴が漏れた。 逃げるように腰を引いて、僕は身を起こしユウの両肩を掴んでいた。 中に入っていた指がずるりと引き抜かれる。僕は喘ぐように名を呼んでいた。 「ユウ……」 うっすらと蜜に濡れて勃ち上がるものを今にも口に含もうとしていたユウが、顔を上げて僕を見る。いつも全てを見透かすかのように僕に向けられるその眼差しには、怪訝な色が滲んでいた。 居た堪れず目を合わさないよう俯いて、拒絶の言葉を口にする。 「ごめんなさい……それ、いやだ……」 弱くかぶりを振って、伝えられるのはただそれだけの言葉。 その理由が、初めて僕のそこを口に含んでくれた人を思い出すからだと言えるはずもない。 少しの間、重苦しい空気が流れる。けれどユウは僕の申し出に嫌な顔をしなかった。気にも留めていないかのように、優しい声で承諾してくれる。 「わかった」 顔を上げれば、淡い色の瞳が喰い入るように僕を見つめていた。 赦されたことに安堵の溜息を漏らせば、ユウは萎えかけた僕のものをそっと握りしめて、やわやわと扱きだす。 もう片方の手がそっと後孔に伸ばされて、再び中に指を挿入される。僕は喘ぎ混じりに息を吐きながら、難なくそれを呑み込んでいく。 そうして前と後ろに刺激を与えられれば、意識は再び快楽に流されてしまう。 「……は、ぁ……っ」 視界が滲んで、僕の世界は不安定に揺れ動く。 いつの間にか溢れ出ていた涙は、空気に触れて落ちていくうちに温度を失い、シーツに冷えた染みを作っていた。 これでいい。だって、こうするしかないんだ。僕はとうに別れの意志を伝えているのだから。 なのに、幾ら振り払おうとしても残酷なほどに優しい想い出は頭の隅にこびりついて離れない。 あの真摯な眼差しも、真っ直ぐで優しいところも、何度も愛してると言われながら抱かれたことも。 「ユウ……、挿れて……」 押し寄せる記憶に潰されてしまいそうで、堪らずに僕はそう訴えていた。 淫らな欲を一心に貪ることだけが、きっと僕を追憶から解放してくれる唯一の手段だから。 「──あっ、ぁ……ッ」 ずっと僕の中を満たしていた指を引き抜かれてやるせない喪失感に喘ぎながら、この後に与えられる更なる快楽を期待して身体の芯はただれたように疼いていた。 なのにユウは凪いだ海のような瞳で静かに僕を見下ろしたまま、動こうとしない。その眼差しを感じるだけで身体は熱を上げていくにもかかわらず、待ち望む刺激を得られずに胸の内はひどく冷えてきていた。 「……ユウ、お願い」 このままでは駄目だ。 僕は身体を起こしてユウの昂ぶりに手を掛ける。硬く勃ち上がるそれをぎこちなく扱いていくうちに呼び醒まされた記憶は淡く濁り、やがて振り切れていく。 脚を開いてユウに跨り膝立ちになれば、自分が小刻みに揺れていることに気づいた。 ああ、揺れているのではなく、震えているのだ。そう気づいて愕然とする。 それをどうにか抑えようと、僕は深く息を吐く。自分が何に怯えているのかを、知りたくもなかった。 早くひとつになりたくて後ろ手でユウの半身を掴み、それを沈めるために腰を落とす。 後孔から身体を押し広げるように入ってくる質量を、僕は息を吐きながら受け容れていた。 「……っは、あ、ぁ……ッ!」 最奥まで呑み込み、ビクビクと背筋を快感が突き上げた瞬間、僕は果てていた。感覚が極まったせいか、新しい涙が溢れては頬を濡らす。 身体を前に倒して押しつけるように強く抱きつきながら、奇妙なほどに安らぎを覚えていた。 まだ中が収縮してるのにも構わず、僕は力の入らない腰をたどたどしく振って、より強い快楽を貪ろうとする。

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