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act.7 Angelic Kiss 〜 the 1st day 6 ※
俺は魂が抜かれたように、その姿態を呆然と見つめてしまっていた。
長い余韻が収まった後に中に挿れていた指をそっと引き抜けば、ハルカがまた小さく喘ぐ。俺の身体に回していた腕の力を緩めて、うっすらと目を開いた。きれいな瞳がぼんやりと光を放つ。
「タクマさん……」
その眼差しから蕩けるような熱が俺の心に注ぎ込まれ、長い間胸に抱いていたわだかまりを甘く融かしていく。
「なんてかわいい顔をするんだ、ハルカ」
艶やかな桜色の唇を指で軽く押せば、ちゅ、とかわいらしい音を立てて吸いついてくる。
そんな些細な仕草さえ愛おしい。セックスを覚えたてのガキみたいに、俺は一秒でも早くハルカの全てが欲しくて堪らなくなっていた。
膝裏に手を入れてベッドに押し付けるように両脚を開かせれば、まだ呼吸の整わないハルカは小さく肩を上下させながら、期待に濡れた瞳で俺をじっと見上げる
「タクマさん、好きだよ」
眩しそうに目を細めて、そう口にする。その想いは偽りには聞こえない。
それがこの場を盛り上げるための言葉だったとしても、構わなかった。
「俺もだ、ハルカ」
逸る気持ちを抑えながら、小さな窄まりに熱い昂ぶりの先端を押しあてて──俺の視線は、ある一点に釘付けになる。
開かれた脚の付け根。内股についているそれは、残酷なほど色鮮やかに存在を主張する。
花弁の形をした、紅い痕。
それが誰かの所有印であることは明らかだ。俺の心臓は今までと違う理由で早鐘を打ち出した。
動きを止めたことに異変を感じたのだろう。ハルカはそんな俺の顔を見て、やがてみるやる顔を強張らせた。
そして俺は気づく。その細い両手首の内側にも、同じ痕があることに。
「……これは」
か細い声で、ハルカは懺悔のように静かに言葉を紡ぐ。
「僕の犯した罪の痕だ」
聖痕 という単語が脳裏に浮かび上がる。
イエス・キリストが磔 にされたときに付いたという傷は、手首のこの部分にあったはずだ。
そんな場所と、身体の全てを知り尽くしていなければ付けられない部分に、この印を刻みつけた相手。
それはきっと、ハルカを心底愛してやまない奴に決まっている。
「お願いだ、やめないで」
瞳を揺らしながら、泣きそうな顔でハルカはそう訴えてくる。その切実な声に俺の旨は揺さぶられる。
お前が犯した罪なんて、俺にはどうだっていい。
「ハルカ……」
内股の紅い痕を指でそっとなぞれば、痛みを覚えたかのようにビクリと身体が反応する。
小さく息を吐いて篭る熱を逃がしながら、ハルカは俺を見上げていた。
「タクマさん。僕は、その人とはもう何もないんだ」
じゃあ、どうしてそんなに辛そうな顔をするんだ。
誰だかわからないが、これ見よがしにこんなところに痕を付けた奴に、俺は激しく嫉妬を覚えていた。
「悪いな、ハルカ」
お前はずるいよ。
何がどうなのかを説明もせずに、こうして俺を雁字搦めに捕らえてしまう。
「俺はお前を離すつもりはないよ」
ハルカは一瞬目を見開く。身体の力が抜けたその瞬間、濡れた後孔に半身を突き立てて、一息にうずめていった。
「──あッ、あぁっ!」
性急な動きだったにもかかわらず、ハルカの中は俺をきつく締めつけながら深く呑み込んでいく。
最奥に到達したところで腰に力を込めて下肢を押しつければ、繋がる部分がビクビクと蠢いた。
「ん、ふっ……、あぁ……」
苦しげに眉根を寄せて背中をしならせながら、それでもハルカは与えられる快楽を悦んで受け容れる。
蕩けそうに熱い内壁は、俺を咥え込み締めつけて離さない。
「……ハルカ」
紅潮した頬をそっと指先で撫で上げて呼びかければ、それに応えてうっすらと目を開ける。睫毛の下から覗くきれいな瞳がきらりと光を放った。
忘れられない愛おしい人にとてもよく似たハルカ。俺を見つめるその顔に不安が浮かんでいるのは、捨てられることに怯えているからかもしれない。
ハルカ。お前が誰かに囚われていてもいいよ。
どんな形でもお前が俺を必要としてくれるのなら、俺はちゃんと受け止めて忘れさせてやるから。
この奇跡の出逢いを、繋ぎとめておきたいんだ。
「タクマさん」
唇からこぼれる声が、一縷の望みに縋るように俺の名を唱える。その美しく真摯な響きが心に沁み渡る。
「動いて……」
ハルカは俺の情欲を掻き立てるようにゆらゆらと腰を小さく揺さぶる。そこからじわじわと湧き起こる快楽が、背筋を急速に這い上がっていく。
理性を残らず奪い取るような魅惑の眼差しを向けたまま、ハルカが細い両腕を伸ばしてきた。
その一瞬目につくのは、誰かによって刻み込まれた手首の烙印。
絡みつくように引き寄せられて華奢な身体に覆い被さり、そのまま横に反転する。
身体にのし掛かるハルカの重みが心地いい。しっかりと抱きしめたまま上体を起こし、座った状態で向かい合う。軽くキスをしてから耳元に唇を滑らせた。
「ハルカ、しっかり掴まって」
俺の言葉にハルカは大きく頷き、両腕を回してギュッと抱きついてくる。
じっとしていても絶え間なく刺激を送り込んでくる熱い粘膜の気持ちよさを、息をついてやり過ごす。
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