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第31話 快楽に堕ちる【1】

 どれだけ日が経ったのか、わからなくなった。  思考を鈍らせるために意図的に睡眠薬でも盛られているのか、譲はヴィクトルの不在時は寝て過ごすようになっていた。  部屋に人が入ってくると、薄らと目を開けて、姿形からヴィクトルとロマンのどちらであるか判断する。  ロマンであれば気分転換に散歩を願い出る時もあるのだが、膝の上にスケッチブックを乗せて中庭に出掛けても、ぼんやりとしてしまって結局はうたた寝をしている。  DP54は電池切れの機械人形のような譲のそばに寄り添った。  譲がうつらうつらと船を漕いでいると、膝からぱたりとスケッチブックが落ちた。譲は気づかずに目を閉じる。DP54が鼻で譲の膝をつついた。 「あぁ・・・落ちたのか、ありがとう。拾ってくれるか?」  DP54はスケッチブックを咥え、譲の膝の上に戻した。 「ありがとう」  賢い番犬の頭を撫でてやっていると、ロマンがワゴンを押してやってくる。 「譲様、天気が良いので外でお茶にしましょう」 「うん」  譲はワゴンの上に視線をやった。準備されているのは、白い陶磁器のティーセットだ。レース布巾が被せられた皿はクッキーかパウンドケーキだろうか。  子どもが喜びそうな焼き菓子の甘い匂いがする。  ティーセットに紅茶が注がれ、譲は口をつけた。  これらに眠気を促す薬が仕込まれているのかもしれないと思いつつも、飲まない選択肢はないのだ。  主人の指示といえど、平気で薬入りの飲み物を提供するロマンはやはりヴィクトル側の人間。寄りかかれる人がいないことは強がっていても辛いものだ。   「譲様、お代わりはいかがですか」  ロマンは空のカップを覗いて、ティーポットを持ち上げた。 「紅茶はいらない」 「では別のものをお持ちしますか?」 「いや・・・いい。皿の上のやつ食べたい」  譲は適当に焼き菓子の一つを指差す。 「かしこまりました」  ティーポットが置かれ、白手袋をしたロマンの手が皿の上に伸びた。  飲み物は紅茶、珈琲、果実のジュース、望めばワインやビールなど酒類も、毎日希望した飲み物が提供されている。 (俺を子ども扱いしたいわけじゃなかったのかよ。公爵の考えは本当に訳わかんねぇ)  変だよな・・・と、譲は慣れたように口に運ばれた焼き菓子を咀嚼しながら思う。  ヴィクトルがいる場合、彼は外せない用事で家を空ける時以外は当然の如く譲と一緒にいたがった。することは決まって同じだ。身の回りの世話を終えると、譲の肌に愛おしげにキスし、抱き締めて全身に触れてくる。 「譲、溜まっているだろう? 今日もすっきりさせようか」  譲の性欲を処理するという名目のもとで行為はなされている。  二度と隠れて自慰をしたいとは思わないが、譲の思いは関係なく、乳首を弄られ、性器を擦られ射精させられる。  もちろん一回出したぐらいでは離してもらえなかった。  しかしその日は序盤で手が止まり、譲に贈り物があった。 「実は今日はプレゼントがある」  ヴィクトルは口を動かしながらも、抜かりなく枷に鎖を繋ぐ。  普段と異なり、譲はうつ伏せにされて磔になった。そしてヴィクトルは譲の太腿に新しいベルトをつけた。  太腿なので両脚への装着が可能で、見た感じは完璧にガーターベルトの形状だ。  素材は表面は革張りだが、肌に触れている面に手脚首の枷と同素材の固いプレートがある。  譲は良くない予感がした。胸の奥が重たくなるような動悸がする。 「どうかな? 脚首サイズの枷だと、こっちの脚にはつけてあげられなかったから考えてみたんだ」  訊かれても困る。こんな装飾品を増やされてたって嬉しくない。譲の予想通りなら、電流が流れる細工を施されたベルトだ。  譲は喜ぶべきなのだろうと笑顔を作ろうとしたが、唇が震えてしまった。 「ありがとうございます・・・・・・」 「気にすることはないよ。譲が満足してくれたら私も満たされる」 「・・・・・・はい」  震えが止まらない。  これで嫌がらせじゃないから厄介なのだ。以前に急所につけるタイプを用意してあると宣言していたのに、そちらを選ばなかったのは、この男なりに善処したのだと思う。罰する目的ではないから、譲のために考えて新しく作られた。  譲は奥歯を噛んで震えを堪えながら、「では再開しようか」というヴィクトルの囁きを聞いた。

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