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第32話 快楽に堕ちる【2】
覆い被さったヴィクトルの体重がずっしりと譲の全身を包んでいる。目で確認できなくても、双丘の狭間で存在感を放つ逞しい雄が、尾てい骨のあたりをゆるゆると行き来する。
ヴィクトルは雄々し勃起させながらも未だ使おうとしないが、譲はそれの反応を感じるたびに脳みそが爛れていくような感じがした。
腹の内側に気持ち良くなれる器官があると知ってしまってから、尻が疼いてしまうのだ。
指で解され暴かれてしまったそこを、この熱い肉棒で擦られたい。これまでの人生で思いもしなかったことだ。知りたくなかった。
「新しいのを試してみようか」
ヴィクトルは譲の顔を後ろに向かせ、目を細めた。
すると心の準備もままならないうちに微弱な電流が流され、太腿の肌がぴりぴりと刺激される。
「アッ、アッ・・・、なにこれ変になる———・・・」
強い電流に身体が慣れてしまったせいか、細針で刺される程度の痛みなら、くすぐられているような感覚でしかない。
それが辛い。
むず痒さが這い上ってくる。ぞわぞわして、ジッとしているのが辛かった。
譲は腰を揺さぶり必死に振り解こうとする。
「取って・・・・・・っ、これ・・・嫌だぁっっ」
「そうは見えないな」
ヴィクトルは懇願する譲の視線を捉えたまま、唇に吸いついた。悲鳴を奪われ、唇を塞がれ、赦されたのはあえかな吐息だけ。藁にもすがる思いで「公爵」と口にしたものの、舌を絡め取られ、言い切ることは叶わなかった。
「・・・ん、ふ、ぅ・・・・・・ンン」
譲は呼吸を阻まれ、快感が外に逃せなくなった。
グツグツと煮えたぎったマグマ溜まりのような快感が全身を敏感にする。背中にヴィクトルの体温が重なって、衣服が擦れて気持ち良い。
「あ・・・はぅ・・・・・・、ッ!」
乳首を摘まれ、譲は呆気なく射精した。
飛び散った白濁の雫がシーツを汚し、ペニスを通り抜けていく蕩ける快感に目を閉じて耐える。
譲が吐精の余韻に打ち震えている間に、後ろのぬかるみに指が伸びる。
太腿に流れる電流の刺激を受けて、慎ましいそこは小刻みに収縮を繰り返していた。ヴィクトルは閉じた入り口を優しくなぞり、ぬくっと指先を滑り込ませる。
「ぁ、ああっ」
譲はシーツを握り締め、背中を丸める。しかし逃れようとした及び腰を引き戻され、指が奥まで入ってくる。
譲の肉襞は拓かれて、ヴィクトルから与えられる快感を覚えている。
ヴィクトルの指は束になり、浅く深く念入りに抽挿を行なった後、隘路に潜んだ官能の種を探り当てた。
「譲の気持ち良い場所はここだね」
「ゃ、あ、あう・・・・・・、うぅっ」
前立腺をこりこりと挟まれ、捏ねられる。
「ぁああ・・・あああっ」
目の前が真っ白になりそうだ。
激しく脳裏が明滅すると、もっと熱く固い、圧倒的な質量で押し潰されたいという欲望が沸った。
絶頂に近づき、下腹部の筋肉が痙攣する。ヴィクトルは見計らったように電流を強くし、譲の身体は硬直した弾みで指を締めつけながら達した。
「っぅ、うっうっ、う———・・・・・・」
射精ならば押し出されて終わりの快感が、次から次に湧いてくる。絶頂時の高みに攫われたまま、譲は戻れない。
「譲は、お尻だけで極めるのが上手だ」
ヴィクトルは先走りを垂らしている譲のペニスを握った。
愛おしむように鈴口をくるくると弄られ、びりびりと電流じみた痛みが走り譲は奥歯を噛んだ。
「ひいい・・・・・・っ」
「安心しなさい。私の指だよ」
ほらねと、先端だけをちゅこちゅこと扱かれる。
「あっ、あひっ、ぅ、あうっっ!」
バネのように腰が跳ねた。劇薬を頭に直接ぶち込まれたみたいな強烈な刺激に涙が出る。
(もう堕ちてしまいたい・・・・・・)
以前ほど逆らう気力は失っていたが、それでも自分を完全に見失うのが怖かった。
まどろみを漂い、緩やかに自我を抑え込まれようとしているのがわかっていた。その中で、賀伊譲という人間であろうと懸命に己れを保ってきた。外の世界に縋っていたかった。
自分がそうでなくなってしまったら、本当に賀伊譲はこの世から消し去られてしまうのだ。
怖い。怖い。
だが今まさに譲を壊そうとする快楽の前では、それすらどうでも良く思えてきた。
簡単だ。自分でいることを諦めればいい。
受け入れてしまえば、その先にあるのは幸せだ。ヴィクトルは譲に幸せをくれると約束した。
譲は、そうだったと思い出した。苦しみに耐える理由など、自分は何一つ持っていないのではなかったか。
(・・・・・・苦しいのはもう嫌だ)
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