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第33話 快楽に堕ちる【3】

 譲の心は崩れかけた崖のふちにある。足元がぱらぱらと崩れるのを感じ、唇をわななかせた。 「公爵・・・・・・」  抗うから辛いのだと認めてしまおう。  ヴィクトルの言うことは正しいのだ。正義だ。全部が、自分にとって害じゃない。  気持ち良いをくれる。幸せをもたらしてくれる。 「何かな、譲」  譲は自分自身を胸の奥に押し込め、鼻を啜った。 「俺を、早く公爵のものにして欲しいんです」  本音と違うことを言っている自覚があったが、自然に口が動いた。 「もうすでに私のものだよ。可愛い譲」 「・・・・・・はい。でももっと公爵が欲しい。下さい・・・俺に、早く」  娼婦じみた言葉を紡いでいると、自分が自分でなくなってゆく。羞恥心で顔が熱くなり、ハッ、ハッと呼吸が荒くなった。溺れたように胸が激しく上下する。  ヴィクトルは思いがけず欲望を曝け出した譲にいたく感動し、品行な目元を弛め色っぽく微笑んだ。まるで自らの努力の賜物を目にしたかの満足そうな笑みだ。 「そうか。この時を待っていたよ。そんなに愛らしく誘われて断るわけがないだろう。ようやく心を開いてくれたと思っていいのかな?」  甘く確信に満ちた声だった。譲が顎を引くと、ヴィクトルは譲の髪を梳いて、うなじに口づけを落とした。  熱い吐息がかかる。唇は下にずらされ、筋肉の盛り上がりに沿って譲の背中に舌が這う。ヴィクトルはこれから猛りを迎え入れるそこに音を立ててキスをしてから身体を起こした。   柔らかくとろとろになった窄まりに熱い塊が充てがわれる。 「ぁ——・・・公爵・・・・・・」  たっぷりした雁首がググッと肉環をくぐってくる。  粘膜がぎちぎちに拡げられ悲鳴を上げていた。譲は呼吸を弾ませながら、シーツをきつく噛んだ。 「苦しいかい?」  ヴィクトルは譲に覆い被さって囁いた。手首を拘束する鎖を持ち上げられ、耳元の近くで金属音が鳴る。譲は鎖を外され、ヴィクトルの膝の上に抱き上げられた。 「は、あん、ぃ・・・ふ、深ぁ・・・・・・」  自重によってずぶずぶと結合が深くなる。初めての質量を根本まで含まされたが、内臓を押し上げられる痛みが勝ったのは一瞬だった。  身体の奥深くにヴィクトルの怒張を感じると切なく疼き、射精を忘れたペニスがたらたらと透明な蜜を垂らした。 「気持ちがいいんだね? 譲のお尻はまだ足りないと言わんばかりに私のものを呑み込もうとしているよ」  譲は淫蕩したヴィクトルの声を聞いた。 (凄い・・・公爵の愛情を受け入れただけなのに満たされる。気持ちいい)  己れの変貌に対する驚きも絶望も、瞬きと共に過ぎ去る。  ヴィクトルは譲の腸襞のうねりを腹の上から嬉しそうに撫でた。  それから両腕を腰に回して抱き、交接部をさらに密着させるように押さえつける。 「はぅっ、ぅう、ぁっ、ぁああっ!」  ヴィクトルが腰をゆっくりと回し、臍の裏側がかき混ぜられる。銛のような太く凶悪なほどの先端が隘路全体をこそぎ取りながら抜けていき、抜ける寸前で腰を突き上げて、ずどんと奥の壁を叩いた。 「んはぁっ、ひ、アッ」  力強く、パンッ、パンッと肌がぶつかる。  きつく締まる粘膜を強引に拓かれ、ヴィクトルの肉杭が通るための路が作られる。  譲は激しい行為に喘ぎ、苦しい声を聞いたヴィクトルは突く角度を変え、インサートを浅くした。 「すまなかった。譲はこっちが好きだったね」  ゆるゆると動くヴィクトルの亀頭が前立腺を掠める。 「はぁ、っ、気持ちいい・・・・・・」  譲が感じ入った声を上げると、狙いを定めてごりごりと擦り上げた。 「欲しければ、もっと、と私を強請れば良い」 「ぁ、ンっ、もっと・・・もっと・・・・・・!」 「何が欲しい?」 「公爵を・・・・・・ん、ああッ」  誘導じみたヴィクトルの問いは譲の脳にこびりついて離れなくなった。  電流は流されていないはずなのに、譲のナカは痙攣しっぱなしでヴィクトルを求めていた。  最後に飲み物を口にしてから時間が経っているので、睡眠薬の効果は薄まっている。快楽の荒波に陶酔させられる一方で、譲の頭は急速に冷えていった。  はっきりとした頭で譲は応え、快楽に悶えた。初めて受け入れた男のもので、本来は性器ではない場所を穿たれて感じている。 (だからこれでいい。ベッドの上では、今はこれで正しい)  譲は楽になりたくて、ヴィクトルの体温に身を委ねた。

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