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第72話 捕虜時代とトラウマ
アレグサンダーは譲の耳元に口を近づける。
「志まで忘れてしまったのは残念だよ。これは譲の悲願でもあったじゃないか。今から思い出させてあげよう」
「駄目です・・・おやめ下さい・・・・・・っ」
譲は身体を引き剥がそうとしたが、まるで敵わず青褪めた。
「力が入っていないじゃないか。抗う気はあるのか?」
「うっ」
万全の体調だったらマシだったろうか。
寝不足に訓練後の筋肉疲労が重なっている。びくともしない肉圧に焦りが込み上げ、懸命に身体を押す。しかし重心を捉えられているせいで無理に暴れると関節が痛んだ。
それに何故だろうか、アレグサンダーの手つきに覚えがある。
かつては感じていた志。悲願。
同じ志を抱いていたにしてはすんなりと腑に落ちてこないのは何故?
刻み込まれていた服従心が譲の身体をザワザワと駆け巡った。
(俺・・・この人の触り方を知ってる)
覚えている。だから大学内で陵辱行為を受けたことがトラウマのトリガーになった。
兵士時代の悪夢を引き起こすスイッチ。
譲の心に深く刻まれていた出来事は戦場の惨事だけじゃなかった。
アレグサンダーは、捕虜の譲に手を出していたのだ。
(だから俺の身体はあの行為に慣れてた)
譲は唇を強く噛んだ。口の中に鉄の味が広がる。
「私は一人の兵士には入れ込まないタチなのだが、譲は格別で忘れられなかった。君を帰してしまったことを後悔していたんだよ」
「・・・・・・え・・・、あ、嫌だ・・・」
服の下に手が滑り込む。
「おや、乳首が」
アレグサンダーがクスと笑った。
「アゴール公爵に可愛がってもらったのかな。どれ程か味見させて貰おうか」
譲は上着をたくしあげられ、露出した尖りを舐められた。
「やめっ」
粒の上を湿った舌がぬめぬめと行き来する。
「ひ、ア」
「嫌がっている反応じゃないな。以前よりも敏感になったじゃないか」
「へ・・・んたい」
不意に譲の口を突いて出た。
「懐かしいね。身体は私のことをよく覚えていてくれている」
「きもちわるい・・・・・・」
譲はぶるぶると震えながら、口走る。
「うんうん。いいよ、もっと言って。私は軽蔑されると興奮する性癖なんだよ。自由に動けない兵士を手篭めにするのはやめられないね」
「思い出した・・・っ、クソ野郎・・・・・・」
「睨まれても私は嬉しいだけだ」
この男はヴィクトルとは異なる正真正銘のサディストだ。
嫌がれば嫌がるだけ愉快にさせる。しかし力で押し除けることもできなければ、義足なしに両脚で逃げることもできない。
「・・・・・・ぅぐ」
ヴィクトルではない者に全身を弄られて、譲は声を漏らさないよう、先程も噛んだ唇の傷を歯で抉った。
(気持ち悪い・・・・・・吐きそう)
アレグサンダーが譲の股間に触れる。
ゆるく反応しかけているのが恨めしい。手でペニスを握り込まれ、形を確かめてくる。
「これは、くく。アゴール公爵のことを考えていても良いぞ」
「ぐっ、」
半勃ちのそこをくにくにと揉まれて涙が滲む。
だが屈辱を受けながらも、アレグサンダーの手のひらを濡らす音が聞こえた。
アレグサンダーは譲が達しようが達しまいがどちらでも良いのか、ただ嫌がる反応を愉しんでいる。
譲は執拗にネチネチと胸と性器を甚振られ続け、早く終われと祈るしかなかった。
◇◆
翌日以降も譲は何度も部屋へ呼ばれ、アレグサンダーの陵辱行為は回を重ねるごとにエスカレートした。
要求を拒否できなかったのは、初日の行為の最後に「私は特に良いと思うものはみんなで楽しみたいスタンスだ。この意味がわかるね?」と脅されたせいだった。
アレグサンダーは大きな身体でのし掛かり、拒絶する譲を軽々と押さえつけて好き放題する。
救いがあるとするなら疲れて気絶した時だけは深い眠りになる為に悪夢を見ずに眠れることか。
だがナガトに
「ボスに特別なことをしてもらっているのか?」
と質問され心臓が飛び出るかと思った。
「ど、なんで・・・何か変なところがあるか?」
「街に来た時と比べて顔色が良いからだよ。特別な治療をして貰っているんだろう?」
ナガトの言葉に幻滅した。真逆の指摘だ。
ひん曲がっている。ここではアレグサンダーは神聖視され、全ての行いが補正されている。
行動を共にしているナガトなら譲の異変を感じて、何かを勘づいてくれるかもしれないという淡い期待はあてにならなかった。
「明日も私の部屋に来なさい」
この日も行為の後に命じられ、譲はぐったりと横たわり、アレグサンダーを睨んだ。
「エルマーさんとナガトに、あなたの本性をバラしてやる」
「面白いことを言うね。しかし恥ずかしい思いをしてまで申告してくれた人はこれまでいないね。譲は勇気がある」
「止めないのか」
「聞く耳を持つ者がいてくれるよう願うよ」
譲は、力なく溜息を吐く。
「・・・・・・なら交換条件を提示したい」
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