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第79話 ランチタイム
その後、移動したのは娯楽室だ。
食堂に隣接しており、中の扉から直接移動が可能で、同様の広さが有してある。
シャンデリアが煌びやかだった食堂と比較して照明は暗く落とされており、カジノを思わせる雰囲気があり、恐らくは実際にカード遊びを行う円卓と、ビリヤード台などが完備されている。
このあたりは譲にとっても馴染み深い。
娯楽室は兵士達の寛ぎの場だった。大きな作戦の後には兵士の働きをねぎらい、戦場を忘れて豪快に羽目を外すことができた。
室内を素通りして甲板に上がる。外に出ると、窓のある操縦室が見える。
中にはキャプテンを務めるアレグサンダー、五人班の片方がいた。彼等が操縦を担当するようだ。
譲は関わらないよう甲板下のデッキに戻った。
(今の時間、ナガトに声をかけたら迷惑だろうか)
自室に戻りながら思い悩む。
トーマスの証言を信じるなら、部屋で一人きり瞑想でもしてるかもしれない。もしくは自作の作戦書と睨めっこか。
そうなると、今後の計画が狂ってしまう。
だがちょうど自室の前の廊下に出る通路を曲がった時、ナガトが部屋からドアを開けて姿を見せたところだった。
「ナガト」
彼の名前を呼んで駆け寄る。
「譲・・・・・・」
「ん? あれ、ここ俺の部屋?」
譲はきょとんとする。
「おう、お前を呼びに来たんだ」
「そうか」
しかし譲はさりげなくポケットに手を入れた。
ポケットの中で指先に触れたのは、部屋の鍵だ。
(俺・・・おかしいな・・・確かに施錠してから出た。締め忘れ?)
まあいい。この現状はきっとそうなのだろう。
譲はポケットから手を出し、ナガトに微笑んだ。
「どっか行くか? 俺は船の中を見てきた帰りなんだけど」
「ボス・・・キャプテンからの伝言だ。これから全員で昼メシを食うって」
「だいぶん早いな。ついさっき朝を食ったばかりな気がするのに」
「当艦は正午間もなく予定通りに着港する。その前に全員の士気を高めたいのだろう。我らがキャプテンのご所望だぞ。行こう」
「了解」
譲は気持ちを切り替える。
ナガトに連れられて訪れたばかりの食堂に戻る。
先刻はまだなかった長方形にセットされたテーブルにはパラパラとメンバーが着いていた。
(コックさんがいないのに誰が準備したんだ?)
そんな譲の心配をよそに車輪の音が床を滑ってくる。
お待たせしましたと、トーマスが料理を運んできた。
「ああ、なんだ。だよね」
ワゴンの上にあるのは野戦食の盛り合わせだ。
「お好きなのをどうぞ」
「はい、ありがとうございます」
ホッとするのも変な話だが、普通の食糧に胸を撫で下ろしながら缶詰を吟味していると、アレグサンダーが食堂に現れた。
「皆、ご苦労」
颯爽と席に着くと、トーマスに手で合図をする。
「これだけでは味気なかろう、最高峰の酒を取ってきてくれないか。形だけでも皆で乾杯をしよう」
「でもまだ」
譲は口を開いていた。
「なんだね」
「まだ全員揃っておりません」
テーブルの周りを囲んでいるのは、せいぜい半分といった人数だった。
「気にせんで良い。数名は操縦室に残してきた。あとは待っても来ないだろう。いつもそうである奴らなのだ」
譲は承知しましたと席に着く。そしてナガトの脇腹を小突いた。
(別に無理して来なくても平気だったんじゃないか・・・・・・っ)
全員参加と聞いて来たのに。
こそっと文句を言ったが、ナガトはよくわからない表情をしてじっと前を見据えている。
固く結ばれた唇と拳。
ヴィクトルの屋敷には百戦錬磨のような顔をして乗り込んできた男とは思えない。
「ナガト」
譲が声に出して呼んでも耳に届いていないようだった。
勝手に譲の部屋に入っていたのは、やはり施錠忘れが原因じゃないのかもしれない。
怪しい行動を取っていたナガト。
真意を聞き出そうとすれば、個人の任務内容に触れてしまう。
ナガトにターゲットを尋ねることは御法度だが、もしかして、ナガトは譲のターゲットを探りたくて部屋に?
缶詰を握ったまま、譲は複雑な気持ちを覚える。
「お酒を持って参りました、乾杯しましょう」
トーマスが戻ってきたらしい。
食堂の空気が変わってくれて助かった。
キャプテンであるアレグサンダーによって直々に注がれたグラスが一人ひとりに渡る。手に持って掲げると、アレグサンダーが簡単に激励を述べる。
「では、革命軍の栄誉ある未来を祈り・・・・・・」
高い天井に「乾杯」をするおごそかな声が響く。
乾杯後の食事は静々と終えられた。お開きになった直後、ふらっと先に出て行ってしまったナガトを追いかけて、譲は足早に席を立った。
「待ってよ、行きは誘っておいて勝手だなぁっ!」
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