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第87話 理性の狭間
「あっ、これ変・・・・・・!」
「ぴりぴりする? 熱く感じる?」
「どっちも、ぁ、うぁ、痒いっ」
指を突っ込んで中を猛烈に掻きむしりたくなる。
「催淫作用を混ぜた油だ。最上デッキの客向けに置いてあったものだが我々は悪趣味だろう?」
腰が扇状的に揺れた。見下ろしているヴィクトルの声が皮肉ぽく聞こえる。
譲の胸に思い当たるふしが浮かんだ。
ヴィクトルが嫉妬をしている。
「・・・ぁん、はぁ、もしかして・・・気づいたんですか」
「ひと月触っていなかったのならこうは柔らかくないだろうからね。譲が自分で弄っていたのなら心から詫びるよ」
「違くない。ごめんなさい。謝るのは俺でした」
「もの凄くもやもやして嫌な気分だよ。でも好きでしていたんじゃないよね? どうかそう言っておくれ」
「もちろ・・・んひっ、あっ、んああっ!」
胸の尖りに触れられていた。油で滑る指先で小さな肉芽を摘もうとする。
譲の返事がどちらであろうと、はたしてヴィクトルの耳に届いていたのか疑問だった。
「エルマー男爵の時にも感じていたが、今程強く激しい憎悪ではなかった。私にとって初めての感情だ。どう処理したら良いのか検討がつかぬ」
ヴィクトルは自問自答しながら、譲の乳頭にぬらぬらとした淫油を塗り込める。
「アッ、あ、や、らぁ・・・・・・ぅ・・・ぅ、公爵ぅ、お願い聞いてっ」
やはり言葉で、口で、まずは想いの丈を話し合うべきだ。この人は忘れているだけで人の心をちゃんと持って生まれた人間だ。嫉妬をするのはれっきとした愛情の裏返しだと譲は思う。
譲の知っている愛情と変わらないものだ。
どこまでも交われないとしても、わかり合う努力をしたい。
だがヴィクトルは聞かず、己れの頭の中しか見えていないようだった。
「夢の話を続けなさい」
淫油まみれの乳首を摘まれ、甘い痺れが全身に散ってゆく。譲の理性が捩じ切れる。
「ふぅ、ぁ、公爵が・・・俺の濡れた尻・・・舐めて・・・・・・っ」
乳首を強く押し潰され、譲はびくんと顎を反らした。
「ああっ!」
「おっと、これはこれは如何様にしたものか。指先だけでも相当だが、口から摂取すれば私も大変な状態になってしまうだろうね。しかし、うん、今はそれがいいかもしれない」
「待っ・・・はぅっ」
ヴィクトルが充血して膨らんだ乳首を扱くように擦る。
タガが外れる。
(話さなきゃ・・・する前に話をしようって言わなきゃ・・・。でも公爵が俺の為だけに怒ってるのが嬉しい)
譲の窄まりが露出され、ひやりと外気を感じたのは一瞬、既にじくじくと熟れている内襞が熱を帯びて疼き、汗と淫油が腿を伝った。
そこに生柔らかい舌が押しつけられた。
ヴィクトルは入り口を拓き、舌を侵入させる。じゅぽじゅぽというやらしい音が、譲に現実であることを思い知らせた。
舌は粘膜を抉り、唾液、汗、淫油が混じった粘液をシーツに撒き散らしながら出入りする。
「は、ぁん、あっ、激し・・・・・・」
加虐的な行為をしていても、手つきは丁寧で穏やかなのがヴィクトルのやり方だったのだが、この時はいささか怖気づいてしまうような強引さがあった。
淫油の作用によるものなのか。心情が影響を及ぼしているのか。痙攣して跳ねる譲の腰を力で押さえつけ、奥へ奥へと潜り込もうとする無遠慮な舌に掻き回される。
けれど、無我夢中になってむしゃぶりつかれるのは悪くない。
「・・・・・・は、あ、はぁ、公爵・・・すきぃ・・・気持ちい」
ハッとしたようにヴィクトルが顔を上げる。
「っ、譲、私も譲を愛してるよ。何より大切に思っている」
その声には少しばかり理性が戻っていた。
しかし呼吸が荒く、碧い瞳が野生味を帯び血走っていた。
「公爵もやらしい油が効いてるんだ。余裕なさそう」
「ああ、困ったな。譲を壊してしまうかもしれない」
「ん、いいです。公爵と繋がってる時なら壊れちゃっても。は、ぁん、はやく、俺も限界なんです・・・」
自分で腹を抱き抱 えただけで勝手に腰が跳ねてしまう。
手のひらで触れた臍の奥に熱の固まりが潜んでいる。ここをヴィクトルのペニスでこじ開けて、ヴィクトル以外には触れない場所にある気持ちいいところを暴いて欲しい。
「いいよ、きて下さい」
夢で見た時のように窄まりに自分の指を入れ、ドロドロに蕩けた粘膜を披露する。
野獣のような顔つきをしながら、ヴィクトルが下半身をくつろげた。
そして譲の窄まりに宛てがい、ズッと体重を乗せた。
「あ、んああっ、ひィィっ」
譲の胸が著しく上下する。苦悶で喉が鳴った。
慣れていた大きさ以上に張りつめた亀頭に侵食され、そり返った嵩に腹の中が擦られる。
辛い。一気に最奥付近まで挿入された為、内臓が上側に押し上げられているのだ。
ヴィクトルのそれがとてつもなく苦しくて、吐瀉物が迫り上がってくる。
しかし堪えていると、馴染んできた。譲の身体がヴィクトルの大きさを包み込んで受け入れる。襞がなまめかしく蠕動し、待っていたかのように絡んで締め上げた。
途端、下腹が弾ける。抽挿運動なしで譲は達していた。
一度も触っていない前から精液が溢れ、シーツに白い水溜まりができる。
イッた直後に脱力すると、べしゃりと崩れ落ちた譲の身体にヴィクトルがのしかかった。
「あ、んはっ、・・・ひ、ひいいあっ」
「可愛いよ譲」
ヴィクトルはぴったりと結合部を合わせて腰を回す。
「あぎ、いっ、はぁ、んぅうう———!!」
もはや口から出るのは叫び声。
譲は手脚をばたつかせて強過ぎる快感の波に悶えた。
でもまだ、ここからだ。
手前まで来ているのはわかるが、突き当たりでつっかえている。
譲は腹のぽっこりと膨らんでいる部分を触った。
(うっ、すごい、腹を突き破って出てきそう・・・・・・)
背中から銛で突き刺されたような出っ張り。さわさわと撫でていると、ヴィクトルが譲の手に手を重ねた。後ろから抱き込まれる形になり、譲はヴィクトルと全身で密着した。
(あったかい。気持ちくて、おかしくなりそっ、)
ぐぐぐと重ねた手を一緒に動かす。腹を押し込まれ、少しずつペニスの先が鉾先を変えた。
その向きに合わせて譲は腰をひねって反らした。ヴィクトルが譲の体勢を支えてくれる。
互いの身体が、まるでわかっているみたいに動く。
譲がここだと思ったと同時に、ヴィクトルが僅かに腰を引くと再びペニスを押し込み、湾曲した隘路にヴィクトルのそれが綺麗に嵌る。
「ぁう、んっ・・・うぁっあぁぁあっ?!」
がぽんと臍の奥で繋がった瞬間、譲のペニスの先っぽから、両目から、身体中の毛穴から体液がいっせいに噴き出した。
震えが止まらないが、腰を抑えられているので抜け出せない。
「こ・・・うしゃ・・・く、これ、やば・・・い・・・」
「私もだよ、やめられそうにない」
ヴィクトルが呼吸を荒げて、熱い息を譲のうなじにかける。
「あ、あう、ひ・・・ぅあ・・・ぁ」
奥の奥で繋がった状態で突き上げられ、本当に壊されてしまう恐怖すら覚えた。
でも夢なら途中で終わっていた。
余すところなくひとつになっているこの時に、やっぱり幸せを感じる。
行為が終わるまで起きていてヴィクトルを離さないでいよう。
馬鹿馬鹿しい任務なんか全部投げ出して、今度は自分がヴィクトルをベッドに縫いつけてしまおう。
ヴィクトルと共に殺されるならそれでもいい。
世界からどれだけヴィクトルが疎まれていようと、自分が愛してあげる。そばにいてあげる。
激しい営みに朦朧としながらも、譲の決意は固かった。
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