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第1話

 ………、別れようと思う。  「なぁ旅行、行かね?」  「……、えッ?」  仕事帰り、飯屋の前で待ち合わせして一緒に飯を食った後、俺の家で前から見ようと言っていた映画を見ながら俺が呟くと、ワンテンポ遅れてユウがこちらに顔を向ける。  「何、突然……」  俺もチラリと隣のユウに視線を向ければ、戸惑う言葉とは裏腹に、表情はどこか嬉しそうに俺を見ていて  「あ~~……、まぁ、別に……」  「別にって……」  俺の返答が気に入らないのか、少し眉間に皺を寄せながら呟くユウに  「……、丁度良くね?十年……」  照れ臭くてまともに顔が見れない俺は、画面に視線を戻して呟くと  「お前……、そんなの覚えてんのかよ……」  意外だと言わんばかりの声音でユウが俺に言うので、俺は居たたまれなくなってテーブルの上に置いている酒の缶に手を伸ばし、グイッと酒を煽る。そうしてカンッ、とテーブルに酒を置いて  「まぁ……、覚えてるな……」  ボソリと呟いて視線はそのままの俺に、ユウは微かに笑うと  「明日は、槍が降るかも?」  そう呟きながら俺の肩に頭を乗せてきたから  「ウルセッ……」  俺はそのまま拗ねるようにユウの頭に自分の頭を乗せた。  俺、小島悠二と俺に頭を乗せられている久山祐司は恋人だ。  出会ったのは高校の時。一年の時に同じクラスになって、入学当初の席は出席番号順で必然的に、ユウが俺の前の席。  ニコニコと明るい笑顔に一目惚れして、一年間ユウを口説き落として、二年の時から付き合っている。  字は違うが同じ名前だから、俺は『ユウ』呼びで、あっちは『悠二』呼び。  今月でもう付き合って十年になる。  だから今回俺から旅行に行こうと提案してみたのだ。  お互いに社会人。最近まで忙しく会えない時間が多かったが、それも終わりしばらくはゆっくり出来そうな時間が作れる事も知っているから、良い機会だと思ったのだ。  「お前、有給取れる?」  ユウの頭に頭を乗っけたまま聞いた俺に  「俺は取れるけど、お前は?難しいんじゃ無いのか?」  俺の姿勢に何も言わずに、ユウが返事を返すので  「あ~~……、いい加減有給消化しろってこの前上司に言われたから、大丈夫だと思う」  社会人になって四年。気付けば一度も有給消化をしていない俺に、見かねた上司が先日そう言ってきたのだ。  「ふ~ん、じゃぁいつ行くか決めようぜ」  「そうだな」  クライマックスを迎える映画を見ながら、俺は緊張を解いて少し安堵し、気付かれないように細く溜め息を吐き出していた。

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