4 / 11

4

〝先輩をイベントに巻き込めば、話ができる〟 その企みは思惑通り大成功。 「グレイ先輩も、今日放課後一緒にカフェ行きましょうね」 「花壇いじりしたことないです、教えてくれませんか?」 「アレックと勉強なんて緊張…先輩も参加してください」 「夜の校舎に忍び込むとか、オバケ出たらどうするんですか!付いてきてくれないと嫌です、じゃないと絶対行きません」 「オレリアの猫がいなくなったそうで、一緒に探してくださいっ」 「はぁ!? 2人っきりでプール掃除とか無理無理!何時間かかると思ってんですか!手伝ってください先輩〜」 繰り広げられる全てのイベントに、とにかく先輩を巻き込んで巻き込んで巻き込みまくって。 思いきり甘えてアシストしてもらって、会話して行動を共にして。 攻略対象者たちは頭に「?」を浮かべてるけど、「まぁ主人公と一緒だしいっか」的な感じでストーリー通りの動きをしてくれる。 おかげでイベントを消化してもどんどん次が発生し、順風満帆。 なんだか学園全体も活気づいたような感覚だ。 (主人公がちゃんと動いてるしなぁ、そりゃそうか) やっと物語がスタートしたようなもんだよな。今まで本当にほったらかしだったし…正にアウト オブ 眼中!って感じで。いや実質今もだけど。 しっかし僕の場回し優秀すぎない? 攻略対象との会話をさりげなく先輩にふって、みんなで話ができるようにしてさ。 おかげでグレイ先輩のこと、もっと知れた。 好きな食べ物・好きなこと・趣味・家族構成・幼い頃どんな習い事してたか・なんの教科が得意でなにが苦手なのか・etc…… 「あくまで攻略対象者がメイン。自分は脇役」という感じで奥ゆかしく、でも聞いたらはにかみながら教えてくれる姿に 心臓がキューっとなって仕方がない。 嬉しい。もっといっぱい話をしたい。 もっともっとグレイ先輩のことを知りたい。もっと、もっと。 (やばいな、僕) 自分で言うのもなんだけど、先輩のことすっごい大好きじゃん。 「ーーっ、」 先輩がいい。 困りながらも僕のお願い聞いてくれる先輩が。 この世界の誰より優しい先輩が。 さりげなくフォローしてくれて、助けてくれて、カッコよくてヒーローみたいな先輩が。 先輩とだけ、恋愛していたい (……ん、だけど!!) 「あ〜ライト見つけた〜!」 渡り廊下の向こうに見えたのは、攻略対象Eの姿。 あれーこの時間なんかイベントあったっけ? バスケットボールの回収? それはこの後攻略対象Dと体育館でするやつ。え、じゃあなんだ? ここ渡り廊下か、もしかして紙飛行機飛ばしたから取ってこいっていうの? それってこいつとだったっけ? えぇっと…確か…… 「ネクタイ解けたから結んで〜〜」 (あぁーそれかーー!) 僕の馬鹿。 先輩と距離を縮めたいがために、なりふり構わずイベント進めちゃって大混乱。 攻略対象5人もいるって言ったじゃん。せめて2人とかに絞ればよかった…… 先輩目当てとはいえ、イベントは順調。 イコール攻略も順調。 僕は、5人共を一気に攻略しているようなもので。 (頭…パンクしそ……) 好感度上がっていつも追いかけ回されるし。 ナンテコッタな状況。諸刃の剣って正にこのこと? ってか「ライト」って名前ほんと恥ずかしい。いいの浮かばなかったときデフォで入ってるやつだよ、初期設定じゃん。前の世界だったらかなりのキラキラネームだって。 「ねぇ〜ライトってば聞いてる〜?」 「あ、ぁ、えっと……」 ぐいーっと一気に距離を詰めてくるE。 いかん、輝かしいほど整ったお顔が真ん前。しかも胸元がはだけてる。 えぇっと、とりあえず、とりあえず 「ぼ、僕結び方わかんないんで先輩に聞いてきますー!」 「えぇ? 自分のちゃんと結べてるじゃん、ちょっと待ってよ〜」 ぐうぅ!正論すぎて胃が痛い! それでも解けてるネクタイを引ったくり、ダッシュ。 グレイ先輩を巻き込まないと意地でもイベント進めないぞ!! 断固として譲れない信念。 僕は、先輩のため動いてる。それだけ。 それだけ だからーー 「ーーっ、」 ツキリと痛む、胸の内。 攻略対象への申し訳なさと、グレイ先輩への漠然とした不安と。 全部が入り混じってごっちゃになってる感情に、今は精一杯蓋をして ただ先輩へ向かって、駆け出した。

ともだちにシェアしよう!