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「梔子、変なことしたら承知しないから」
「分かってる撫子」
今宵、久方ぶりに上玉の客が入り「お前たちが世話をしろ」と此の見世で一、二を争う私たちが付く事となった。
「お前はもう身請け先が決まってるけど、僕はまだなんだ。だから、良い方は貰うから」
「…勝手にどうぞ」
バタバタと廊下が煩くなる。
カタン!と襖が開き、二人で床に手をついた。
「「ようこそ、おいでくんなました」」
「おぉ!良い声じゃぁ、面をあげぃ!」
そろりと顔を上げると、覗き込んでくる様にこちらを見てくる大柄な男。
「ほぉぉこりゃぁ別嬪さんじゃ!男と思って期待してなかったが、してやられたわ。
ほれ!お前もそんな所にすっ立っとらんで此方へ来い!」
「……はぁぁ…」
カタリと音を立てて、もう一人連れの者が入って来られる。
「ーーーーっ、!」
(ぁ……)
ーーそれは、まるで時が止まってしまったかの様だった。
真っ直ぐな背筋と、雨に濡れた様な漆黒の髪。
あの頃と変わらぬ…力強い瞳と整った鼻筋。
(和…孝……っ、)
〝やくそくだぞ、伊都!〟
「……? 梔子?」
「ん?どうした?」
「ぁ、いいえ何も…っ、」
(何故…どうして、和孝が此処に……?)
急に煩くなる心臓を、無意識にぎゅぅっと抑え込む。
「んー? まぁよい。
さぁ!取り敢えず酒じゃ酒じゃ!!」
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