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シィ……ンと、一気に静まる屋上。 (ど、どうしよう、なにか言わないと…!) でも抱きしめられてて全然顔見えないし、というかいつまでこのまま? いい加減離してくれないと緊張で頭パンクしそうなんだけど?? 「……ぇ、っと、あの、一条くn ーーっ、」 ポスッと、肩が重くなる。 ちらりと見ると、一条くんの髪。 「はぁぁぁ……ほんっと、俺バカ」 肩口に顔を埋められてて、表情が見えない。 でも、体勢と近くで聞こえる声だけで胸がギュッと締め付けられてしまう。 「……ぁの、さ。 〝いっつも買う量多すぎ〟って、いつも僕のことみてたの?」 さっき雪たちの前で言った言葉。 学食行ってない日は僕がどうしてるかクラスメイトに聞いてたの? それで購買までしれっと付いてきて、買う量多いなって思ってたの? 実際探したら教室で食べてないって、じゃあ何処だって探し回ったの? 僕を?? ーーどうして? (嫌だ) 早く否定してもらわないと、どんどんいい方向に考えてしまう。 違うって、なに自惚れてんだって、早く言ってくれないと じゃないと、僕はまたーー (……ちが、ダメなんだ、これじゃ) さっき雪と珊瑚が言ってくれたじゃん、「頑張れ」って。 諦めてどうするの? 僕が僕を1番信じないといけないのに、駄目だよ。そんなのは。 「ーーっ!」 抱きしめられてた両腕をグイッと離し、体を回転させて一条くんと向き合う。 びっくりした表情の一条くんは、僕と目があった瞬間クシャリと顔が歪んだ。 「……やっぱさ、俺駄目だわ。朱香」 「なにが、駄目なの?」 いつの間にか呼び方が名字から昔みたいに名前になってるけど、今はそんなのは後回しで。 「小さい頃から朱香は真っ直ぐで、気持ちに正直で…… すごく、羨ましかったんだ」 1番体が小さかったくせに大きい奴とも一丁前に喧嘩して、いつでも自分に正直で、明るくてキラキラしてて。 「俺もこんな奴になりたいなって、ほんと思ってた。それで自分の好きなことに俺も正直になろうって、サッカーには絶対嘘つかないようにしようってやってきた。 ーー今の俺があるのはさ、全部朱香のおかげなんだ」 「………ぇ」 転校してサッカーの強い場所へ行って、自分の実力は並レベルなんだと痛感した。 自分よりもずっと得意な奴らがいて、上手い奴らがいて、そんな中で自分は輝けるのか、全然自信がなくて。 「けどさ、そんな中でも心の奥で朱香がずっと応援してくれてたんだ」 もしここに朱香がいたらどうするだろう? もし朱香が俺だったら、こうしたんじゃないだろうか? そんな「もしも」をたくさん思い浮かべて、憧れてたあの子に自分を置き換えて考えて。 必死に必死に食らいついたら、だんだんと 見える世界も変わってきてーー 「だから、俺が薔薇を探すため入学して朱香と再会したとき……正直嬉しかったんだ。 ーーあぁ、俺の薔薇は 絶対にこいつだって」 「ーーーーっ!」 けど、同時にすぐ怖くなった。 だって俺らは男同士。 世間じゃ確実に疎まれる存在になる。 そんな世界に、朱香を引っ張り込んでいいのか……? 俺は、他人の目に耐えられるのか……? 「だから、もしかしたらって女子から探したんだ。それから先生も探してみて…でも全然違って、なんかしっくりこなくて。 それで教室帰ってみたら朱香がいるだろ? それに俺、すげぇ安心してたんだ。 朱香にしっくりきてる俺が……いるんだ」 探すのは、もう無意味だと悟った。 けど…どうしても俺は、自分に自信がなくて…… 「放課後の話、めちゃくちゃ傷つけたよな。ごめん」 「そん、な、そんなのは全然っ」 「朱香はいつでも自分に正直だったのに、俺ほんと弱くて…… ははっ、強くなったつもりなのになぁ。全然駄目だわ、やっぱ」 「違う、違う一条くん。一条くんは弱くなんかないよ、こんなの簡単に決めれるわけないから、だからーー」 「だからさ、俺やっぱ駄目なんだ。 朱香がいないと」 「ーーーーぇ、」 今、なんて……… 呆然と見上げると、泣きそうに笑ってる顔。 「俺には…俺の人生にはさ、朱香が必要なんだ。 もう性別とか関係なくて、ただ吉井朱香って人間を俺が欲してて…… 離れてもずっとずっと考えてた、お前のこと」 「っ、」 (うそ) 嘘だ、こんなの。 こんな都合のいいことなんて、絶対。 「心の奥でいっつも支えてくれてて、もう運命の人なんか朱香以外考えらんないわ、俺。 なのにさ、逃げてごめんな」 「そんなっ、僕だって離れてからもずっと一条くんのこと考えてた!サッカーの番組とか録画して、一条くん映んないかなとか、いっぱい考えてt」 「それ」 「……へ?」 「一条くんじゃないだろ。昔みたいに名前で呼べよ」 「っ、よ、陽太……くん」 「あははっ、もう陽太くんってガラじゃねぇから呼び捨てでいいわ。 入学式で会った時、俺から名字呼びしたもんな。それに朱香も合わせてくれて……わざと俺から距離置いて、本当にごめん」 「い、いいよっ、もう過ぎたことだし」 「なぁ、もっかい放課後のやつやり直させて」 「え? ーーっ! ぁ…そ、れ……」 目の前のポケットから出てきたのは、真っ赤な薔薇の指輪。 「この学園に来てから、ずっと朱香を目で追ってた。 クラス一緒だから授業中も見れるし、昼休憩は学食で見れるし。時々購買だったからしれっと後追ってたけど、まさか別クラスの奴らとこんなとこで連んでるとは思わなかった。 一体どこで知り合ったんだ? とか、そんなの朱香の自由だし俺には関係ねぇかもしれないけど、でもそういうのにも嫉妬してる俺がいて。 ……百歩譲ってクラスの奴らにはって思ってたけど、もうそういうのも全部やめだ。 俺は朱香だけ見てんだから、朱香も俺だけ見てろ。 俺は…一条陽太は、吉井朱香のことが好きです。 だから、お前が赤薔薇なんじゃないかって思ってる」 「っ、ぁ……」 「どう? これ、持ってるだろ?」 ニヤリと笑われ慌てて首から下げてるのを見せると、安心したように息を吐かれた。 「ごめんな、やっぱ俺すげぇお前のこと傷つけた」 「ううん全然っ。その、寧ろさ、簡単に行くほうが駄目なんじゃない? ーーだって〝運命〟なんでしょ!?」 「っ、はは、そうか。そうだな」 ゆっくりとネックレスが僕の首から外され、チェーンから指輪が取られる。 そして優しく左手を取られて、薬指に真っ赤な薔薇の指輪が…はまって…… 「うん、やっと見つけた。俺の薔薇だ」 「ーーっ、陽太ぁ……!」 ぎゅぅっと抱きつくと、しっかり抱きしめ返してくれる力強い腕。 (絶対絶対、大丈夫) 僕らは男同士で、確かに普通よりも大変なことばかりで。 けど、僕と陽太ならきっと乗り越えられる。 だから…… 「愛してる、朱香。もう二度と離さねぇから」 「僕も…僕も、愛してますっ!」 「ほら、俺の手にも付けて?」 「っ、はい」 そのまま抱きしめ合ってたら、チャイムが鳴って昼休みが終わって。 でも「さぼろっか」って。 放課後までずっと屋上で、互いに離れてた時間のことを語り合った。 それから校長室に指輪を返しにいったら、楽しそうに笑われた。 「ふぉっふぉっ、やはりワシのヨミは外れんなぁ。 なぁに安心せい。 ーー幸せが、待っておるよ」 (やはり15こ揃えば真っ先に結ばれるのは赤か。 一条くんが心配じゃったが、無事乗り越えたようじゃな) (さて、次は何色か……?) *** [赤色の薔薇の花言葉 ] あなたを愛してます・愛情・情熱・熱烈な恋 花言葉が本当に好きで、いつか薔薇の花言葉をシリーズみたいに15こ書いてみたいなと思ってました。 赤色は、一途で情熱的な話にしたかったです。 みなさんにアイディアをいただきながら書くのもすごく楽しいので、またTwitterでアンケートを取るかもしれません。 引き続き白薔薇や桃薔薇やその他の薔薇たちを見守っていただけると幸いです。

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