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【はい。私はもう満足です。】
赤薔薇が結ばれたらしい。
(やっぱ最初は赤色だったか)
ポツリ
「いつの時代も変わんねぇなぁ」
やはり15こ揃えば最初に結ばれるのは赤。
それだけ情熱あるからこそなんだが……
(ったく、真っ直ぐすぎて羨ましいぜ)
こんだけ大人になってしまえば
素直になるなんざ……難しくて、恥ずかしくてーー
***
「……〜ということで、夏休みも気をつけて過ごすこと。いいな?」
「はいはいはーい!先生は彼女とデートですかぁ?」
「余計な質問しない。黙ってろ」
「えぇ〜永(ナガ)ちゃんせんせー厳しい〜〜」
「だから永ちゃんせんせーは辞めろ。ちゃんと二永(フタナガ)先生と呼べ、ったく……
ほら、HR終わるぞ。号令」
「きりーつ」
教員免許を取って、数年前母校に戻ってきた。
高校生ということで多少大人ではあるが、まだまだ甘ちゃんなガキばっかで楽しい。
俺は先生方の中でも厳しい鬼教師として有名で、やりがいもちゃんと感じていて。
(そんな鬼教師に、いつから「永ちゃんせんせー」なんて呼び名が付いたんだか…はぁぁ……)
「朱香ー帰るぞ」
「あ、待って!」
廊下を見ると、並んで帰る別クラスの生徒。
入学した時からあいつらが薔薇と運命の奴なのはわかりきってた。
しかも色まで予想通り。
(歴代の赤薔薇見てりゃ、赤色なんだろうなってのは簡単だったな)
吉井朱香も真っ直ぐで、一条陽太も真っ直ぐな考え方を持ってて。
幼馴染なんだっけな? 確か。
遠目でも情熱的に惹かれ合ってるのが見て取れて、最早時間の問題だろうと思っていた。
だが、まさか入学してたった3ヶ月。夏休み前に結ばれるとは予想してなかったが……
(ま、あいつらなら大丈夫だろう)
男同士ってのが引っかかってるらしいが、一条陽太のこれからを考えるとあまり弊害にはならないはずだ。
あいつは吉井朱香を手に入れたことで更にサッカーにのめり込み、上達していくだろう。
既に注目浴びてんのにもっと注目を浴びれば、世界のスカウトマンたちが放っておくわけがない。
進学すんのかしないのは知らねぇが、きっと遅かれ早かれ海外へ行くことになるはずだ。
日本を出ちまえば、多少は同性愛に理解がある。
ましてや一条陽太は有名選手。女性とのスキャンダルで選手生命が断たれるのはもっての外。
だから大舞台で誠実な選手として活躍しながら、吉井朱香と慎ましく過ごしていくんだろう。
(表向きは独身でやり切るんだろうな。はぁー人気が出そうだ)
今からサイン貰っとくか?
ははっ、そんな奴らこれまで何人も見てきたじゃねぇか。
ここで学生してた時も、教師として過ごしている間も、自分の気持ちに正直になってちゃんと相手と向き合って幸せを掴み取ってきた歴代の奴らを。
(なのに)
なのに俺は、まだ………
「二永先生」
「っ、あぁびっくりした古谷(コタニ)先生か。なに」
「なに、じゃないですよ。誰も教室残ってないのに教壇立って何やってるんですか? 怖い」
「うるせぇな。ここでいろいろ考えることあんだよ、ほっとけ」
「ほほー流石は鬼教師ですね。真摯に仕事と向き合う永ちゃんせんせー本当尊敬します。すごーい」
「っ、てめぇほんっと昔からいい性格してるよなぁ」
「そういうのは今はいいですから、学年主任が呼んでます。夏休み前にいろいろ決めること決めましょうって」
「あーはいはい。行きます」
夏休み後にある運動会や文化祭の役割分担に、委員会の準備に飲み会やらの場所決めに。
学生はもう休みだが、大人たちはまだやることまみれだ。
まぁ、多少は年休もらうけどな。
準備をして、先に歩き始めたこいつと職員室へ戻る。
俺より少し小さい背中は、今日も相変わらずシャンと綺麗に伸びていて。
(俺は)
ボソッ
「俺はいつお前に、俺の薔薇だと言えるんだろうな」
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