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「旅行いきましょう」
「………は?」
夏休み中や冬休み中は、1日最低2〜3人の先生が出社してないといけない。
今日はたまたま俺と古谷先生が当番の日で、クーラーの効いた職員室で静かに仕事をしてたんだが……
「明後日から続けて年休取ってますよね? 当番表のカレンダー見ました」
「あ、あぁそうだけど」
「私もそこ年休にしたので、旅行しましょう」
「はぁ?」
バァン!と机に置かれたパンフレットの山。
所々付箋が貼ってあって、ちゃんと読み込んでんだなっていうのが見て取れて……というかそういうのじゃなくて。
「なんで俺がお前と旅行しなきゃならねぇんだ!」
「なにか予定がありましたか?」
「い、いや、特にない…けど……」
「ならしましょう」
「おいこらちょっと待て!」
確かに予定は無い。だがお前と旅行する義理もない。
なに考えてんだ古谷は!?
「海にしますか? 山にしますか?
あと個人的に温泉に浸かりたいのですがどうでしょうか。近場だと生徒たちと鉢合わせしたとき気まずいですから、遠くに行きましょう。 いいですね?」
「いや良くねぇって! 大体、お前なに急にーー」
「二永先生」
「っ、」
いつになく真剣な声に思わず目線を上げると、静かにこちらを見ている顔。
「いい加減、私たちには話し合いが必要です。
そうでしょう?
私はもう……あなたからたくさんの時間をもらいましたから」
「ーーっ、」
「…行先は私が決めます。
明後日朝7時、駅前で落ち合いましょう」
パンフレットの山を抱え、自分の席に帰っていく後ろ姿。
〝話し合いが必要〟
(分かってる、分かってんだよそんなことは)
ここを卒業してから今まで、時間は十何年とあった。
だけど、まだ俺は……その長い月日で出たお前の答えを、聞くのがーー
「………っ、」
***
『おめでとう。
今回の相談者の中から、ワシは君を選んだ』
親が勝手に校長先生に相談して、高い倍率から何故か見事に俺が選ばれて。
運命の話をされたのは、入学したて高一の頃だった。
『あの、選んでもらったのはありがたいんですけど俺占いとか運命とか全然信じてないんで、その』
『他の者にその席を譲るのは許さんぞ?』
『っ、』
『ふぉっふぉっ、なぁに信じらんでもいいのじゃ。
ーーどうせその通りになるのだからな』
(どうせその通りに、なる……?)
へぇ、面白ぇじゃん。
その自信ひっくり返してやったらどうなるんだ?
与えられた指輪は、2つの色が混ざり合った綺麗な薔薇の模様がはいったもの。
『君が探すのは〝絞り模様の薔薇〟じゃ。
これと同じ指輪を持ってる者にたどり着けば、それが二永くんの運命の者だろう』
『なるほど?』
なら、探さなきゃいい。
別に恋とか愛とかどうでもいいし運命なんざクソ食らえ。
3年間ダチと楽しく過ごして、卒業の時に指輪を返しゃいいんだ。
はっ、簡単じゃねぇか。
『……先は長くなるぞ? 心してゆきなさい』
校長室を出る前意味深な言葉を言われたが、特に気に留めること無く、ひねくれ者の俺の運命はスタートした。
それからーー
「…〜が先生、二永先生、起きてください」
「ん……?」
「もうすぐ着きますよ、ほら」
「んんー」
(なんか、懐かしい夢見てた気する)
ググクッと伸びをして窓の外を見ると、既に綺麗な山々が連なっていた。
「おぉ、緑豊かだな…癒される……」
「クスッ、そうですね」
普段建物の中で仕事してる分、一気に日常と切り離された感覚。
まぁ、折角の休みなんだしこれくらいじゃなきゃな。
「どうします? 先ずは荷物置きに宿へ行きますか?」
「そうだな。で、宿の周り適当にぶらぶらして……とりあえず1日目はゆっくり羽伸ばすか」
「はい。観光は2日目からにしましょう」
「2日とも同じ宿だよな?」
「ええ。嫌でしたか?」
「んーにゃ。いちいち宿変える方がだるいから、それで正解。ありがとな」
「……っ、はい」
さて降りる準備をするかと立ち上がる。
まさか2泊3日の旅になるとは思ってもなかったが、実際始まってみるとワクワクしてる俺がいるのも事実。
まじガキかよ、笑えるわ。
(けどまぁ、来たからには満喫しねぇとな)
そんな俺を安心した顔で古谷が見てたなんて……悪いが気付かなかった。
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