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俺が椎名に気づいたのは、やたらじぃ…っと見られる視線をもらったからだ。 初めはなにかの間違いか気まぐれかと思ったが、酷く熱心なそれに気づいたら話しかけてしまっていた。 それから一緒に運営委員会として仕事をして、業務のこともそれ以外のこともたくさん話をしてたらいつの間にか距離が縮まって、そのとき分かった。 (そうか、あいつは俺を前々から観察してたんだ) 恐らく自分が白薔薇だと言われてから、ずっと。 自分の運命の相手はあの人なのだと、少しづつ少しづつ椎名なりに受け入れようとしていたのかもしれない。 俺の家族のことや歴代の白薔薇のことだって、人伝に聞いたのだろう。 それが余計にプレッシャーになったのかもしれない。 知らず知らずのうちに、俺は椎名雪を追い詰めていた。 正に灯台下暗し。 あの日話をした後、俺は改めて〝白薔薇〟について調べあげた。 どうして俺たちは他の色じゃなく白だったのか。俺の両親が薔薇と運命の人だったこともあり、早めに指輪が返ってくるのを期待されてこの色にされたんだと思ってた。 でも、そんなのはこっちの問題だ。 俺と椎名でひとつの形。なら、椎名のほうにも何かしらの理由があるはず。 赤薔薇や絞り模様・緑薔薇のように、このふたりじゃないといけない理由が…… 花言葉の辞典や辞書全てを駆使し、その何処にでも載っていた〝ある言葉〟。 ーーそれで、俺は一気に閃いた。 昼休みにバタンと開けた、屋上の扉。 いつもの奴らは相変わらず隅のほうで話をしていて、俺には気づいてない。 近づいていくと、啜り泣くような声。 「雪…本当にいいの……?」 「俺駄目だって言ったよな? 捨てんなって、雪が雪じゃなくなるって。なのに、諦めんのか……?」 「……ん、もう、いい」 「椎名、俺はあんまり他の色のことには口出せないけど、多分運命の人は嫌だと思ってると思うよ」 「それは、違う、きっと、嫌がってるっ」 頭を撫でられながらポロポロ涙を流すのは、俺の薔薇。 「困ってる、から。これ以上困らせちゃうと、嫌われそ、だから。も、いい」 「雪……っ、でも」 「運命の人に嫌われるのは、もっと怖い、から」 〝怖い〟 (そうか、俺はより強い恐怖でお前を縛り付けてるのか) 怖いから。 もうこれ以上〝怖い〟が大きくならないうちに、今の〝怖い〟を受け入れないと。 そんな使命感で、お前は俺を選んでくれるのか。 「ーー椎名」 「っ!」 振り向いた瞳が、大きく見開かれる。 ビクリと揺れた体を守るように、3人が前へ出てきた。 「…悪いが、椎名と2人で話をさせて欲しい。 怖がらせるようなことはしない、頼む」 「……本当ですか」 「本当だ。なんなら反対側の隅からこっちを見張っててもいい。俺はなにもしない」 「…雪、どうする?」 「……は、なす、話すから、大丈夫」 「行って」と3人の背中を押す姿に、「なんかあったらすぐ教えてね」と去ってくれる吉井たち。 視線で礼を言いながら、静かになった屋上で目線を合わせるよう椎名の前に座った。 「…椎名」 「っ、はい。ぁの、僕から行くって言ったのに、訪ねてもらって、ごめん、なさぃ。 遅く、なっちゃって、その」 つっかえつっかえの焦ってるような声。 それは必死に「俺から嫌われたくない」と叫んでいるようで、心が締め付けられる。 「いいから、大丈夫だから落ち着け」 「っ、でも」 「俺は怒ってるように見えるか?」 「…見え、ない……けど」 「椎名、もういいから」 「っ?」 「もう焦らなくても、いいから」 「…………ぇ?」 椎名雪は、〝純粋〟だ。 純粋で純情で、純潔で真っ白で。 正に白薔薇が似合うような真っ直ぐな人間性を持っている。 調べたもの全てに書いてあったこの単語は、正に椎名雪を表していると思った。 「なぁ、椎名。 恋ってしたことあるか?」 「っ、な、い」 (あぁ、やはり) 言い方悪いが、椎名は童貞だと…処女だと思っていた。 恋人も出来たことがない。なにも知らない正真正銘の真っ白な子。 そんな子に、俺はなにいきなり愛なんか押し付けてんだろうか。 重すぎて笑えてくる、本当。 「椎名。俺、白色とか両親とか、もうどうでもいいから」 「え……」 〝歴代の白色は赤の次に結ばれることが多い〟 〝多い〟だけだろ? 例外だって発生すんだろ。 両親だって、こんな形のまま指輪を返して結ばれてもきっと喜んではくれない。 そうだ、下手なプライドや焦りなんざは捨てろ。 俺がなにより大切にしなきゃいけないのは、目の前にいるこいつだ。 だってこいつは、俺の人生において1番の宝物なのだから。 「なぁ、椎名」 擦りすぎて赤くなった目元を撫でながら、笑いかける。 「俺と一緒に、〝恋〟をしよう」 「……恋?」 「そう、恋」 俺たちに〝愛〟は、早すぎる。 先ずは〝恋〟をして、それから〝愛〟へと変えていきたい。 「俺のこと、無理して好きにならなくていいから。 先ずはその〝怖い〟を消していこう? 俺もお前に言われたこと考えながら、もっかいお前を好きになるから」 〝『薔薇の』椎名雪〟じゃなく〝椎名雪〟を好きになる。 幼い頃から言われてきたことが凝り固まってたのか、そうやって椎名を見ていることに俺自身気づいてなかった。 そんな視点に気づかせてくれた椎名を、もう一度よく見て好きになって。 (って、もう十分好きなんだけどな) 驚くほど考えが変わった俺に戸惑いながら、それでも一生懸命に見てくる顔へ、愛おしさが溢れてキスしてしまいそうになる。 〝薔薇〟が特別なんじゃない。 〝椎名雪〟が特別なんだ。 こいつが、俺の人生で1番の宝物だ。 「ーーーーっ! ぁ」 無意識に出たのか、ふわりと微笑む俺に目を見開く顔。 「? どうした?」 「無いもの……見つ、けた」 「ん? 恋心とか感情とか、そういう心理的な意味じゃなかったのか?」 「ちが、笑顔が…… 〝あったかい笑顔〟が、無かったの」 「ーーっ、はは、そうか…」 (嗚呼) 俺には本当にこいつだけだ、きっと。 俺だけの、椎名雪だ。 「指輪を返すタイミングは、また決めよう。 互いに〝返したい〟と思ったとき校長室へ行くか」 「っ、はい」 「よし。なら、一応これから俺たちは恋人同士だからな。お前のこと、ちゃんと見て知っていくから。 あ、俺も〝雪〟って呼んでいいか?」 「ぁ、なら僕も、四ノ宮先輩って」 「駄目。苗字じゃなくて〝凌(リョウ)〟って下の名前で呼んで。 後、出来れば指輪をつけて行動してほしいんだが」 「え? それ、は」 「もう俺が見つけてんだから、薔薇のお前も付けていいだろう。 恋人として、お前に変な虫が付かないよう付けといてもらいたい。駄目か?」 「ぁ、その……駄目じゃない、です」 「なら決まりだな」 目の前の首にかかっているチェーンを外して、指輪を手に取る。 「雪、これから互いに ゆっくり恋していこう」 「っ、はぃ」 コクリと頷いてくれたその左手薬指に、白薔薇の指輪をつける。 恋と言っても〝結婚を前提とした〟恋だ。 左手薬指の位置で問題ないだろ。 「このこと、みんなに話してもいい?」 「あぁ、話は終わったしもう呼んでいいぞ」 「ありがとう」 嬉しそうにパタパタかけて行く姿を眺めながら、空へ向けて大きく息を吐く。 (俺たちはようやくスタートライン。これからってか) あんなに運命について学んできたのにな。 もしかしたらどの薔薇よりも、指輪を返しに行くのが遅いかもしれない。 でもまぁ、そんなの雪とのこれからと比べりゃなんてことない。 さて、どうやって恋から愛に変えていくか…… 先ずは、沢山話をしよう。 それから手を繋いで、休日には何処かへ出かけてもいいかもしれない。 許してくれるのならキスを。もっといいのであれば抱きしめて眠りについて。 体を重ねるのは、愛に代わってからのほうがいいだろうか。 雪は本当に真っ白だから、怖がらせないようゆっくりと、でも確実に気持ちいという快感を与えながら抱いてやりたい。 そうして幸せを感じながら眠って、朝を迎えたらーー その時は、もうその関係は〝愛〟に変わっているのではないだろうか。 そんな日が来るようにと、祈りながら…… 戻ってくる雪たちの足音に振り向き、笑いかけた。 (ふむ。白薔薇の指輪は返っては来とらんが、これはもうゴールと捉えていいじゃろ。四ノ宮くんはしがらみに打ち勝つことが出来たのぉ。良かった良かった) (さて、次は何色かな……?) *** [白色の薔薇の花言葉] 純潔・清純・深い尊敬 1作目から順に、数字の入る名字を使っています。なので次は5が付く名字のキャラクターです。 次回もお楽しみに。

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