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体育大会、当日ーー カラリと晴れて清々しい天気。 時折り涼しい風も吹いていて、とても気持ちい。 そんな、運動するにはもってこいの今日この頃…なのに…… 「ま、お前らしいっちゃお前らしいよな」 「高くんちょっとは労って!」 「あーはいはい痛そうだな大丈夫かー?」 「全然心こもってなくない!?」 3年の1番最初の種目で、まさかの転ぶという事態。 おかげで既に救護テントの下。 え、高校最後の体育大会なのに俺このまま終わり? せっかく高くん見にきてくれたのに?? 「あーあーむくれんな。終わったら好きなアイス買ってやるから」 座ってる俺にもたれるようにのしかかってこられて、「ぐえっ」とカエルみたいな声が出る。 まぁ、もう競技には参加できないけどこうやって高くんといられるならいっか…なんて僕も大概厳禁な奴すぎる…… 「おぉー、啓介案外足速いのな」 「っ、」 目の前で行われている競技は、俺の団が優勝した。 退場前にチラリとこちらを見たけーすけが、高くんが来てるのに気づいたのか大きく手を振った。 それに気だるそうに振り返している。 泣いて帰った日。 高くんに心のうちを全部吐いて、次の日からなんとか学校へ行けるようになった。 けーすけとゆっこちゃんとも、話ができてる。 ……とても、ぎこちないけど。 (どう、すればいいのかな) 話をしながら「いま邪魔になってないかな」と考えると、上手く会話ができない。 周りからの「あいつら付き合い始めたんだからいい加減空気読んでやれよ」って思われてるかもしれない視線にも震えて、ヒクリと喉が鳴る。 ここ数日は、そんな日々だった。 どうにかしなきゃいけない、わかってる。 でも、どうすればのかがわからない。 (いっそ、高くんの学校に編入しようかな) そのほうが今より過ごしやすいのかな。 でもここでそうやって逃げるのは駄目だよな。 けど、ならどうやって…… 「次の種目、ゆっこ出んじゃん」 ハッと前を見ると、午前の部の1番の見どころ「もの借り競争」。 学年はバラバラ、男女混合でスタート位置に着く。 確か走った先にある紙に書いてあるお題の人を借りて、その人と一緒にゴールすればいいんだよね。 はちまきをギュッと結び直したゆっこちゃんは、かなりやる気の様子。 間も無く、パァン!というピストルの音と共に一斉にお題の紙へ向け走り始めた。 ゆっこちゃんも自分のとこにある紙に手を伸ばし、素早く中身を見る。 「あ、」 「お、走ったな」 ポッケへ紙を仕舞いながら、一直線に向かった先は (けーすけだ) 声援が上がる中、懸命にけーすけの腕を引っ張っている。 その仲睦まじい様子に胸がギュッとなって、つい高くんの服を握ってしまう。 「……ん?」 ゴールへ走ろうとするけーすけを止め、紙を見せながら何かを話すゆっこちゃん。 なにしてるんだろう、答えの確認かな? ……って、 「んん?」 何故か、全速力でこちらへ向かってくるふたり。 「ぇ、な、なんでこっち来てるの? ここゴールじゃないよねっ?」 「ゴールではないだろうな。ってか真逆だろ」 「えぇぇなんで!?」 「「伊月ー!!」」 「………へ」 肩で息をしながら、真っ直ぐに見つめられた。 「伊月一緒に来て!啓介おぶって!」 「え、うわぁ!」 「悪りぃ高、ちょっとコイツ借りるから!」 「はいはい落とすなよ」 「伊月捕まってろ!後口閉じとけ舌噛むぞ」 「ひぇっ」 ぐわっと勢いよく動かれ、思わず目の前の首に腕を回す。 そのまま全力で走られる背中に、必死にしがみついてーー 『ゴール!第一走目1位は3年生、流石です! でも3人でゴールしていますね〜お題は一体なんだったんでしょうか?』 実況してる生徒へ、ゆっこちゃんがはぁはぁ息しながら紙を渡す。 『お題は……〝大切な人〟! あなたの大切な人は、ひとりではなかったのですか?』 「…………ぇ」 読まれたお題に、彼女は満面の笑みを浮かべていた。 「啓介は私の運命の人! 伊月は、私の大親友なんです!!」 『私の親友は、伊月だけよ〜』 (……あぁ…) 「どっちも同じくらい大切なので、3人で」 『なるほど!1位本当におめでとうございます!! さて、それでは間も無く第二走が始まります。一走目の皆さんは退場してください…』 「やったなゆっこ、1位だって」 「あんたが速かったからね。よく背負ってあれだけ走れるわ。いつものヘタレはどこ行ったの?」 「いやぁこれだけは1位取っときたくてさ。 ……って、伊月? な、なんか俺の肩濡れてる気すんだけど」 「え!うそどうしたの? こいつの背中乗りづらかった!? 傷口痛い!?」 「な、なるべくゆっつりテント戻るからな、待っとけy」 「うわぁぁんっ!ごめんなさいぃぃ!」 「「………え?」」 ぶわっと溢れた涙が止まらなくて、ぐしゃぐしゃの顔のままふたりを見る。 「おれ、が、駄目だったぁ……っ!」 ゆっこちゃんは、ちゃんと俺のこと思ってくれてた。 けーすけも、俺のことたくさん心配してくれて、おんぶしてくれた。 なのに俺、ふたりのこと信じ切れてなくて、避けてしまって。 「伊月泣かないの。謝るのもだめ。 初体験だったもんね、友だち同士が付き合うのって」 「気ぃ遣うよなぁ、俺も中学で経験あるからわかるわ。 俺ら別に伊月に嫉妬とかしないし、今更2人だけで過ごしたいとか無いからさ。 だから変わらず一緒にいてくれよ」 「そうよ。というか離れられると私が泣くから、本当に。 伊月とはこれからもずっと友だちなんだからね。 それで、啓介と結婚するとき友人代表のやつお願いするの。その代わり伊月と高くんの結婚式は私がそれするから。 そうやって、ずっと縁は繋がっていくからね」 「っ、」 (結婚……って) そんな先の未来まで、一緒にいるのを想像してくれてたんだ。 「ね、伊月。卒業まで3人でいよう? その後は進路あるから別々だろうけど、時々は集まろうね」 「成人したら飲み行こうぜ! 酒飲みながらいろいろ話すんの楽しそう〜!」 「ぅん、うん……っ」 「おーい」 「ぁ、」 迎えにきてくれてるのか、遠くからこっちに歩いてくる高くん。 ねぇ高くん、大丈夫だった。 ひとりにはならなかった。 たくさん心配してたけど、俺の居場所は無くならなかったよ。 なんとなく雰囲気で察したのか、近くにきた高くんが苦笑気味に両手を広げてくれる。 それにぎゅうっと抱きついて、けーすけの背中から移動して。 笑ってるゆっこちゃんと 冷やかしてくるけーすけと 軽くあしらいながら優しく抱きしめてくれる高くんと 「〜〜っ、みんな、大好きぃ」 俺はこれからもずっと、この輪の中で過ごしていけたらなぁと、思う。 (やはり黄色は比較的平和に結ばれるのぉ。 わしが手伝ってやらんかったら、ふたりが出会うのは何十年も先じゃったからな。よかったよかった) (さて、次は何色じゃろうな) *** [黄色の薔薇の花言葉] 友情・平和・愛の告白 体育大会のもの借り競争を使ったものが書いてみたかった。 次回もお楽しみに。

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